ニューズレター 第24号 2012年夏

目次

第13回EMDRヨーロッパ会議参加印象記
第7回学術大会シンポジウム企画後記
「子どものEMDR,面接中の子どもの解離や抵抗をどう扱っていくか」

JEMDRA-HAP 活動報告 〜現状復興へ
ITC「Basic Phコーピングモデル」ワークショップを終えて
ワークショップ「EMDRと子どもの治療」に参加して
新刊「こわかったあの日にバイバイ!-トラウマとEMDRのことがわかる本-」
新刊「トラウマと解離症状の治療」
EMDR Part1トレーニングを終えて
編集後記


第13回EMDRヨーロッパ会議参加印象記

市井雅哉
日本EMDR学会理事長

2012年6月15~17日,スペインのマドリッドで行われた第13回EMDRヨーロッパ会議に参加した.日本からは私の他に,兵庫県立大学の天野玉記さん,緑の森こどもクリニックの山森紀美子さんが参加した.この3人はなかなかのチームワークで,ほぼ,独立独歩,大会中は,パーティと最後の日の夕食を共にしたが(私の娘も参加させていただいた),それ以外は自由に,学会場内,そして観光と動き回っていた.

まず,14日にはトレイナーズデイ,コンサルタントデイがあり,私にとっては懐かしいアンドリュー・リーズ,プリシラ・マーカス,ジム・ナイプ,マリリン・ルーバー,また,津波以降にさまざまにお世話になったUKのデレク・ファレル,イスラエルのイラン・シャピロ,ブルリット・オーブ,メキシコのナッチョ・ジャレロ,ルーシー・アーティガスに会うことができ,支援のお礼を申し上げ,おみやげの扇子を差し上げた.

4日間で,ジム・ナイプの「EMDRトレーニングはどう進化したか?」,サンドラ・ウィーランドの「発達トラウマ障害とEMDR」,バン・デア・コークの「トラウマ治療の新しい見方」,フィリス・クロースの「前言語トラウマのEMDR治療」,ドロレス・モスケラの「EMDRを用いた自己愛的,反社会的人格の理解と治療」,ジャニナ・フィッシャーの「トラウマ,身体,神経生物学:解離性障害の治療におけるEMDRと感覚運動心理療法」,アンドリュー・リーズの「EMDR治療における感情恐怖症:クライエントと臨床家における感情耐性能力の開発」に参加した.さまざまに新しい知識を手に入れ,関心を掻き立てられたが,ポリヴェーガル理論を初めとした脳理解に言及したセッションがいくつもあった.

また,各々20分ではあったが,天野さんの発表「幻肢痛のEMDR治療中にNIRSで測定された脳皮質活動」,私の発表「トラウマ記憶のEMDR治療中の血行動態反応」も無事に終えた.私にとっては,脳にまつわる勉強もし,天野さんに助けられながら,一方で英語はベルリッツに通い,準備に手間をかけた分,達成感もひとしおであった.二人の発表に挟まる形で「EMDRモニタリングの神経生物学的関連:脳波研究」を発表したイタリア人パガーニが,「自分は20年前京都大学で核医学を教えていた」と話しかけてくれただけでなく,研究の成果にも関心を持ってくれた.2014年の大会(エジンバラ)の基調講演で言及すると約束してくれた.治療前後の違いでなく,治療過程,眼球運動や編みこみにより,脳のどこが影響を受けるのかは,大変興味深い疑問であると思う.

900名余の参加者で大変盛況であった.多くの会場はスペイン語の同時通訳が付き,一部は,イタリア語,フランス語などもあったようである.

マドリッドは多くの美術館があり,街並みも,彫刻,広場など,大変美しかった.闘牛も見たが,これは,ちょっと残酷で長居できなかった.でも,その後,世界最古のレストランで子豚の丸焼きを楽しんだ.フラメンコを見逃したこともあり,また訪れてみたい街の一つである.

来年は,イタリアのパレルモ(シチリア島),再来年がスコットランドのエジンバラです.みなさんも一緒にいかがですか?

(写真:一部はEMDR EuropeHPより)


第7回学術大会シンポジウム企画後記
「子どものEMDR,面接中の子どもの解離や抵抗をどう扱っていくか」

海野千畝子
兵庫教育大学

筆者は子どもシンポ企画者である.企画の趣旨は,子どものトラウマ臨床をする者が, EMDR治療を活用し,日々奮闘しながら困難となる解離と抵抗をどう取り扱っているのか,を先人に学ぶ目的で取りあげた.シンポジストは,日本側は,東京学芸大学の大河原美以氏と,浜松医科大学精神科の杉山登志郎氏である.両氏ともに豊富な臨床経験から,それぞれの解離と抵抗についての見たてや体験が話された.さらに,2年ぶりに待ちわびた招待シンポジストのJoan .Lovett M.D氏が来日し,困難な子どもに対してのEMDRという内容を紹介した.

司会進行は,子どもへのEMDR他,ニューロフィードバックでの臨床も注目される,子ども心クリニックの竹内伸氏である.大河原氏は,「抵抗」を,子どもの臨床プロセス中の自我が強くなる肯定的な発生状態と捉え,その後,家族や周囲に働きかける機会となった事例を取り上げた.また,子どもが,ネガデイブ感情を上手に取り扱えるようになる為には,ネガティブ感情を一旦表出しても家族や周りは自分を愛してくれるという体験が必要とトピックが語られた.さらに「ゆで卵モデル」という,黄身の部分のネガティブな混乱や怒りの感情に色をつけ,白味の部分の色が子どもを守っている状態の象徴的工夫でタッピングしている等が提示され,聴衆はよりイメージしやすく,また沢山の視点が与えられたのではないか.杉山氏は,もっとも困難な虐待対応の子ども臨床に関わる抵抗や解離に,自我状態療法を取り入れている内容が話された.お助け人格として,事例の子どもの守り神としての白いキツネを呼び込む,イメージの中で怒りを発散させる等は,さらに具体的にきいてみたい臨床スキルであった.そしてLovett氏からは,われわれが抱いている子どものEMDRに対しての困難性を,それは困難で当然だ,と根拠をもって勇気づけられた内容が整理されて話された.臨床ケースへの見たてやRDI,愛着を優先する,NCやPCを省く等,より明確に意識できた.全体として,このシンポジウムを通して,われわれ,子どものEMDRに関わる臨床家が,何より共有感覚をもてたことが大きな意味があったのではないか.


JEMDRA-HAP 活動報告 〜現状復興へ〜

北村雅子
川越心理研究相談室室長
つくば福田クリニックカウンセラー

 東日本大震災が起こった2011年3月11日より瞬く間に1年余が経過した.しかし,現状復興への歩みは遅く,残された爪痕は大きい.2012年6月13日現在,警察庁によると余震も含めた死者15,861人,行方不明者2,939人.また,避難生活で体調を崩したなど震災関連死した人は岩手,宮城,福島,茨城,埼玉の5県で1,407人,全国の避難者は,未だ338000人(2012年1月現在)となっている.EMDRは海外の兄弟学会から緊急時の活動実績を学習していたので,災害支援の意気込みをまとめるには比較的早かったと思っている.

◇2011.5.13. J-HAP(人道支援プログラム)委員会の立上げ(参加者250名)     ◇2011.5.14. 直近のトラウマ処理プロトコルを始め「緊急時の対処」トレーニング 日本EMDR学会会員セラピスト250名が参加                   ◇2011.8.5-7 part1トレーニング(東北の山形市へ場所変更:生涯学習センター遊学館)
参加者73名(被災地関係者 16名 減額)
◇2011.8.8 直近のトラウマ処理プロトコルを始め「緊急時の対処」トレーニング再研修会(地震津波被災支援の継続研修)(於山形テルサ)参加者49名(内被災地関係者 8名 減額)(講師は市井雅哉,太田茂行,北村雅子,仁木啓介).
◇2011.9.18 コンサルテーションと実践報告,実習の研修会(J-HAP委員会の活動として)(仙台,東北大学医学部:講師は市井雅哉).参加者8名(宮城5名,岩手1名,福島1名,新潟1名)宮城県の児童精神科医小野寺滋実会員は,子どもの2症例を呈示.
◇2011.10.6.~2012.4 までの半年間 白川美也子(費用的には別だか,J-Hap委員として時間,体力,気力,経験力,実践力)のめざましい活動.東京から岩手晴和病院での月2回の勤務を希望. 10月6日盛岡勉強会は,白川美也子のケースや鈴木廣子会員のスーパービジョンを6名で実習.その後も定期的に訪問し,岩手晴和病院を中心に県沿岸部の学校その他の支援に入り,スクールカウンセラー等への継続的フォローアップが可能なように支援を続けている.
◇2011.10.30 コンサルテーションと実習の研修会(J-HAP委員会)(仙台於東北大学医学部,講師は市井雅哉,太田茂行,仁木啓介).参加者は10名(青森2名,岩手1名,宮城4名,群馬2名,新潟1名).前記小野寺会員と宮城県臨床心理士東海林渉会員による3つの事例提供.
◇2011.11.20.地震津波被災者支援の継続研修(J-HAP委員活動)(於仙台青葉カルチャーセンター) 参加者19名(青森1名,岩手2名,宮城5名,福島1名,その他の地区:10名),(講師は,市井,太田,仁木)                     ◇2011.11.21〜23 Part2トレーニング (於ハーネル仙台)参加者63名(内,青森4名,岩手2名,宮城7名,山形4名,福島1名の18名 地域参加者減額).

1年経過した後2012年の目立ったJEMDRA-Hapの活動としては下記の3点である.

1. イスラエルトラウマ連帯(ITC)との共催による「BASIC-Ph コーピングモデル」のワークショップの実施・参加がある.これは,4月のHAP委員会で新井委員の提案によりこの件に関心をもっていたHAP委員らの賛成により決定. その結果,5月12日から27日の間に,東京2日を始め神戸,仙台,盛岡,南三陸などで計11回のワークショップが行われた.東京の2日や神戸,仙台でのワークショップには,会場の準備や参加者への呼びかけ,受付,運営,接遇を始め該当地域のHap委員がそれぞれに参画した.(東京:新井,白川,北村のHAP委員,沢宮,岡田,佐藤淳らの会員)東京では東京や近県在住のEMDR学会員を含めた100名近くの参加者があった.神戸(新井,市井,仁木,近藤,大塚のHAP委員,植村会員,福井(義)会員),でも多くのEMDR学会員が参加した.(仙台:小野寺,) 盛岡をはじめとする岩手県での開催には,白川美也子HAP委員が半年献身的に支援行動に従事した岩手晴和病院の智田院長が確固とした核となった.計11回の総参加者は約400名.Ruvie Rogel さんと Dalia Sivanさん,イスラエル国民の方々らの希望は,日本のより多くの職種の支援者に役立つことで精神科医,臨床心理士,SC,小中高校大学教員,看護師,​保健師,警察官など様々な職種の方が参加された.新井Hap委員によるとルヴィ先生は,「1回のワークショップの参加者は20名程度で」と依頼されていたとのことで予定数の約2倍の方々が参加された.なお,EMDRが運営に携わったオープンワークショップ(東京2回,神戸1回,仙台1回)​での参加者からの募金額は,\183,257で全額JEMDRA-Hap 委員会への寄付とされた.(今回の「Basic-Phコーピングモデル」では,すべての人が持つ「コーピングモデル(対処法)」の存​在に気付き,対象とするその人のモデルを利用してつながろうとする​とよりつながりやすいという感覚や話すことの安心感をもちやすいということを体感してもらうこと.そうして,支援する際の気づきと視点に使ってもらえたらという目標があったと思います.二人の先生は,日本EMDR学会会員たちや多くの日本人たちの熱意と共に支援し合おうという協調性に大変感銘を受け,また来日し​て継続研修を行いたいと言葉を残されました.これを機に,参加者それぞれの専門の基礎にBasic-Phをお加えになられて,参加者の方々の平素の臨床の余裕が広がりますように.)

2. また,嬉しい報告としては,J-HAP委員会のロゴマークがついたおしゃれなバッジの3種類が仁木啓介委員により寄贈された.同じくロゴマークとイラストの付いたT-shirtsが新井委員の努力により第7回の学術大会に間に合うように出来上がり,135枚が大会中に販売された.

3. その他の会員の震災への支援状況を見ると,JEMDRA-HAP委員会としての働きではないが,志あるHAP委員や会員がさまざまな方法で震災地の支援に取り組んでいる.一例,杉山詔二会員:南三陸で生活支援.新井陽子会員:秋以降,福島県SCとして小学校で毎週支援.岡田太陽会員:4月より週3回宮城県SCとして塩釜近辺の小中学校で支援.黒田律子会員,福島県SCとして毎週,避難小学校に日帰りで支援.南和行会員,福島県SCとして浜通り地区の学校で勤務.植松秋会員が福島県いわき明星大学のカウンセラーに.吉岡春菜会員,ジャパン・ハートの一員として毎月,定期的に気仙沼,石巻で奉仕.北村も月一回,金曜日から3日間をジャパン・ハートで気仙沼,石巻を中心として幼稚園や保育園などで支援.その他に確認されていないだけで他の会員たちも定期,不定期に支援活動に従事しているだろう.

Hap委員の多くが思っているように,残念ながら志のある多くの会員を有効活用できているとは思えない. これからも,東日本をしっかり意識しながら,息の長い支援を,模索しながら続けていきたい.
JEMDRA-HAPのホームページができました.
http://hap.emdr.jp/
是非,ご覧下さい.


ITC「Basic Phコーピングモデル」ワークショップを終えて

新井陽子
HAP委員
被害者支援都民センター

イスラエルからルヴィ先生とダリア先生をお迎えして,5/12~27の間に,計11回のワークショップを行いました.EMDR学会員の枠を超えて,精神科医,臨床心理士,小中高大教員,SC,​保健師,警察官など総勢約400名もの支援者の方々にご参加いただくことができました.実はルヴィ先生から,「1回のワークショップの参加者は20名程度で」と依頼されていましたので,それを大幅に超えて予定数の約2倍の方々にご参加頂いたことになります.

今回のワークショップでは,「Basic-Phコーピングモデル」という新しい​風を全国にお届けしました.Basic-Phとは,人はストレスに対して6つの対処法が存在しそれらを組み合わせて使っているというモデルです.新たな療法を学んでいただくことが目的​ではなく,すべての人が持つ「コーピングモデル(対処法)」の存​在を理論的に理解していただき,普段の臨床に新たな気づきと視点を持って​いただくことを目標としていました.そして,さらに「人と人がつながること,語るということの安心感」を実感していただくことも,もう一つの目標でもありました.

皆様それぞれの専門の基礎にBasic-Ph視点を加えていただき,普段の臨床の幅を広げて頂けることを期待しています.参加後,すでに実際の臨床で活用してくださっている嬉しい報告も頂いております.

さらに,ルヴィ先生とダリア先生が再来日してくださるという嬉しい便りが届いています.参加された方々から「もっと深くBasic-Phを学びたい」とお声もたくさん頂いておりますので,ぜひご期待ください.そして参加できなかった方は,ぜひ次回にご参加いただければ幸いです.

今回のオープンワークショップ(東京2回,神戸1回,仙台1回)​に参加された皆様からの募金額は,183,257円となりました​.すべて日本EMDR学会HAP委員会へ寄付させていただきまし​た.皆様からお預かりさせていただいた寄付は,今後の活動に有効​に使用させていただきます.

HAPの目的は,小さな支援の種を世界中に届けることです.小さな種が緑の芽を出し,緑豊かな大地に育つことを願っています.


ワークショップ「EMDRと子どもの治療」に参加して

伊東ゆたか
東京都児童相談センター

 2012年5月19日からの二日間,Joan Lovett先生によるワークショップが行われました.これは昨年企画されながら諸々の事情で延期されたもので,待望の来日でした.著書の『スモール・ワンダー』は,先生の鋭い臨床的視点に基づく子どものトラウマ治療の実例がたくさん書かれ,たいへん魅力的な内容です.しかし医療機関を受診できる親子という点で,私の勤務する児童相談所ケースと異なっており,何かもう一つヒントのようなものを得たいと思っていました.はからずもこのWSでは子どもの治療に養育者も巻き込む具体的な方法が示され有意義な時間でした.親子の交流時,治療者がBLSを使いながら子どもの良い気持ち,親への愛着を強化する方法があります.他者との協調性に課題を持つ子どもでも親の注目や肯定的言葉かけは強いインパクトがあることは一般に知られていますが,それにBLSを加えることにより適応的行動はさらに強化されます.例えば「シャボン玉ゲーム」では,シャボン玉をつぶす方法を親が教示し,それに従った時,親は子どもに礼を言い誉め,その間,治療者は子どもをタッピングします.実際にロールプレイで体験してみますと,私たち大人でも単純に「シャボン玉を割る」という行為は楽しく夢中になり,親役に礼を言われるとさらに良い気持ちになりました.この方法は虐待の問題を抱える親子の緊張感を取り除き,良い関係を築くためのケアにも使えると感じます.

Lovett先生は徹底して子どもの治療場面を安全で楽しいものにすることに配慮し,パペットや玩具を多用しています.懇親会ではジブリのフィンガーパペットが大量に入った缶詰が記念品として事務局から贈られました.先生は十本の指全部に小さなパペットをはめ,両手を広げ満面の笑みでした.この講演旅行を知って日本のEMDR治療者のためにと自分のビデオの利用を了解してくれた子どもたちがいました.先生は戻られてから彼らとあのジブリパペットで遊んでいらっしゃるのでしょうね.


◇ 新刊紹介 ◇

アナ・M・ゴメス著
「こわかったあの日にバイバイ!-トラウマとEMDRのことがわかる本-」

大塚美菜子
兵庫教育大学

 2012年5月25日,EMDRの子ども向け絵本「こわかったあの日にバイバイ!-トラウマとEMDRのことがわかる本-」が東京書籍より刊行されました.アメリカ合衆国アリゾナ州の臨床家,アナ・M・ゴメスの原作「DARK,BAD DAY…GO AWAY!- A Book for Children about Trauma and EMDR-」を翻訳したものです.EMDRについては,その作用のメカニズムは,現在解析されている途中であるため,クライエントに治療のプロセスと機序について心理教育を行うことは難しさを感じることもあるのではないでしょうか.

この絵本では,怖かった過去の体験が今の症状にどんな影響を与えているのか,EMDRを行うことでその記憶に伴う認知,感情,身体感覚がどのように変化してゆくのかを,可愛らしいイラストと共に紹介する内容となっています.セラピスト(あるいは保護者)から子どもに読み聞かせることで,治療への動機づけが高まり,導入がスムーズになることを,私自身も臨床場面で使用してみて実感しています.

また,これは絵本ではありますが成人のクライエントにも十分お使い頂けると思います.大人の自我状態から,子どもの自我状態へ読み聞かせをして頂く…といった使い方もできますし,工夫次第で適用範囲は広がることと思います.

アナ・M・ゴメス/著 市井雅哉/監修 大塚美菜子/訳 角慎作/絵 東京書籍


サンドラ・ポールセン著
「トラウマと解離症状の治療」

岡田太陽
宮城県教育委員会緊急派遣SC

2010年5月,神戸で開催された日本EMDR学会第5回学術大会に著者であるサンドラ・ポールセン先生が招聘され「Looking Through The Eyes-解離性連続体におけるEMDRと自我状態療法」の継続研修会が行われました.サンドラ先生はご自身で描かれた本当に素敵なイラストをふんだんに用いながら,解離症状を抱えるクライエントに対してEMDRを適用するために自我状態療法を組み合わせて行う戦略的な「ACT-AS-IF」のアプローチについて紹介されました.「トラウマと解離症状の治療」は,あの時サンドラ先生によって日本にもたらされた「ACT-AS-IF」のアプローチについて,先生が描かれた素敵なイラストと共に詳細に書かれた本になります.端的に言うのであれば,EMDRの8段階のうちの第2段階である準備段階に自我状態療法を取り入れることで,内的家族を交通整理したり,クライエントが圧倒されないサイズに記憶を切り分けたりした上でEMDRを導入していく…という感じのアプローチになります(実際はもっともっと細やかかつ戦略的です).

「ACT-AS-IF」は,確かに解離症状を抱えるクライエントにEMDRを適用するためのアプローチですが,本書の中にはリソースチームの作成やLoving Eyes(愛情に満ちたまなざし)といった解離症状のないクライエントにも使えそうなテクニックが紹介されています.そして,何よりも大きいのは自我状態療法が日常出会う様々なクライエントの理解とその上に成り立つ介入に対してとても大きな拡がりを与えてくれます.
サンドラ先生の魅力的なイラストを最大限に生かすために,わかりやすく,臨床場面ですぐに使え,困った時はすぐに読み返すことができるような本に仕上がったと思っておりますので,是非お読みになっていただければと思っております.

サンドラ・ポールセン/著 岡田太陽・新井陽子/監修 黒川由美/訳 東京書籍


EMDR Part1トレーニングを終えて

井上 祐紀
島田療育センターはちおうじ

私は東京都八王子市に新設された島田療育センターはちおうじ児童精神科の医師,井上祐紀と申します.発達障害や行動・情緒の問題を呈する小児とその家族の相談・診療に従事しています.発達の特性についてのご相談を希望して来院されるクライアントの中には,虐待や発達早期のトラウマの存在・関連が疑われるケースが少なくありません.また,保護者自身のメンタルヘルスの問題の背景には保護者自身のネガティブな養育体験がかかわっていることが多く,親子ともにその支援に難渋することも少なくありません.今後は当センターのような療育診療においても親子のトラウマを扱うことの訓練を受けた専門家が診療にあたることが重要と考えてPart1トレーニングに申し込ませていただいた次第です.

私自身,この技法に関していくつか誤解・曲解していたところがあったように思います.まず,EMDRが眼球運動だけでなく,両側刺激が与えられるものであればタッピングや音刺激など他の感覚のモダリティを用いることが有効であることを知りました.またPTSD診断基準を満たすような重大なトラウマ(Big-T trauma)のみを治療するのでなく,EMDRではそれ以外のネガティブな出来事についても,後々影響を与え続けるものであればSmall-t traumaとして治療の対象になることはこの技法の応用可能性の大きさを示唆していると感じました.私は,小児のクライアントの行動・情緒の問題に対して認知行動療法(CBT)的アプローチを試すことが多いのですが,EMDRがNCとPCを同定し,その認知の変容を目指している部分については一部CBT的でもあり,親和性を感じながら学習させていただくことができたと思っています.クライアントの情報を丁寧にアセスメントし,NCとPCを上手に引き出すことにこそ,この手法を用いた治療面接の醍醐味の一つがあるようにも思いました.市井先生の引きこむ力を持ったご講義はとてもインパクトのあるものでしたし,3日間のファシリテーターの先生方による実習は本当に貴重な体験となりました.セラピストとしての役割を担う実習もさることながら,クライアントとしてEMDRを体験するセッションはこれからの臨床においても貴重な示唆を与えてくれることと思います.この技法は,クライアントに映像をイメージさせ,ただ手を振るというものではないようです.クライアントにとって世界はどのように見えているのか,セッション中の表情の変化などから現在クライアントが何を体験しているのか,クライアントの「身になり」ながらセッションを進めていくことが重要だろうと考えています.

トレーニング終了後,さっそく自分の外来で何例かEMDRをトライし,若干の手ごたえを感じています.今後は注意深くケースを選択しながら症例を重ね,Part2トレーニングに向けて準備を進めていきたいと考えています.これからのわが国の児童精神科医療がEMDRを含めた多角的な技法を巻き込んでいきながら,子どもたちを支援できる様々な手立てを用意できるよう微力を尽くしてまいりたいと存じます.今後ともどうぞよろしくお願いいたします.


* 編集後記 *

今回は,いつもより内容が盛りだくさんになりページ数も多くなってしまいました.東日本大震災に対するJEMDRA-HAPの活動報告や新刊紹介など,お伝えしたいことがたくさんあります.前号よりPDF化されたため,誌面の制約を受けにくくなり,より多くの情報を発信できるようになっています.これから充実した誌面作りを目指して頑張りますので,ご協力の程よろしくお願いいたします.(E.U.)

東北キャンプ
世界一心の温まるキャンプ2012 in 福島(小林正幸提供)

 

 

 

 


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EMDRニューズレター24号(PDF)

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