日本EMDR学会倫理綱領

2020年10月29日

<前文>

 EMDRの臨床実践や研究活動の対象となる人の多くが、ストレスやトラウマを抱え脆弱性を有しており、EMDRを用いた専門的サービスの実施は、対象となる個人やその個人と関わる家族および集団の健康や生活に大きな影響を与える可能性がある。そのことを鑑みて、EMDRを用いた治療的介入や研究活動が対象者の心身の健康および人権に対して加害的なものにならないように十分に配慮することが必要である。また、そのような配慮は、EMDRの実践が、単なる心理的技法のクライエント等への提供にとどまらず、会員への人格的信頼によってはじめて効果を期待できることから、単にEMDRの実践のその場面にとどまらず、会員の全生活に反映されなければならない。これらをふまえて、会員が遵守しなければならない倫理綱領をここに定める。

 

Ⅰ 倫理的行動規範の原則

日本EMDR学会は、「1.人間尊重の原則」「2.能力維持の原則」「3.責任の原則」「4.品格の原則」の4つの原則に基づき、倫理的行動規範を定める。

1.人間尊重の原則

すべての人の尊厳と価値を尊重し、人権を重視する。

1.1 一般的な尊重に関する規準

(ア)国籍、人種、宗教、民族、言語、年齢、障害、教育、性別、性的志向、社会的地位、経済的状態、ライフスタイルなどによる差別を行わず、個人の権利を尊重し、侵害するような行為をしない。

(イ)公平性を保ち、偏見のある行為を避ける。

1.2 プライバシーと守秘義務に関する規準

①  実施した面接および支援について適切な記録を残す。

② クライエントから得た情報は、原則的に第三者に開示できない機密情報として扱い、原則として、クライエント(または法的代理人)の同意がある場合にのみ第三者に対し機密情報を開示し、開示内容は承認された範囲に限定する。

③ インテーク時にクライエント(または法的代理人)に下記のような守秘義務の限界があることについて説明し、同意を得る。

(ア)法令上の根拠がある場合、あるいは守秘義務以外の倫理的義務との義務の衝突がある場合、またはその可能性がある場合は守秘義務を果たせないことがあること。

(イ)より良いサービス提供のため、機密情報を共有し、これを前提に専門家間でカンファレンス等が実施される可能性があること。

(ウ)クライエントと十分なコミュニケーションが取れない場合には、通訳者や家族など第三者の援助を求める可能性があり、その際には機密情報も伝えられる場合があること。

④ 重大な懸念が提起されるような例外的な状況においては、守秘義務は解除される場合がある。

(ア)クライエントの安全が脅かされる可能性が高い場合。

(イ)クライエントの行動によってEMDRの実践を行う会員を含む他者の安全が危険にさらされる可能性が高い場合。

⑤ 守秘義務を解除する場合、および法令に従いクライエント(または法的代理人)の同意なしに機密情報の開示を行わなければならない場合は、その理由を文書化し、記録を残す。

⑥ クライエント(または法的代理人)の許可を得てのみ、クライエントの肖像、行動、発言などを録音、録画、写真撮影などすることができる。

1.3 インフォームドコンセントに関する規準

① クライエント、特に子どもや心理的に脆弱であることが懸念される成人にEMDRを用いた専門的サービスを実施する時は、その目的や期待される効果が理解できるよう説明する機会を十分に持ち、クライエントの能力が許す範囲で同意を得る努力をする。

② EMDRを用いた介入(研究も含む)を実施するすべてのクライエントのインフォームドコンセントを得る。

③ いつ、どのようにして、誰からの同意が得られたのかに関する十分な記録を残す。

④ EMDRを用いた介入または研究で、当初得たインフォームドコンセントから重大な変化があった場合、補足的なインフォームドコンセントを得なければならない。

1.4 自己決定に関する規準

① クライエントの自己決定を可能な限り支持する。

② EMDRを用いた介入からいつでも離脱する権利があることをクライエントに説明する。

1.5 研究に関する規準

① EMDRを用いた研究を行う場合、該当する倫理指針を遵守する。

2.能力維持の原則

会員はEMDRを実施する能力を保ち続けることに最大限努力し、自己研鑽に励む。

2.1 能力の認識についての規準

① 自分の能力や技術の限界について認識し、その能力の範囲内において専門的サービスを提供する。

② 継続的に専門知識と技術を習得する必要性を認識し、積極的な姿勢で自己研鑽に励む。

③ 専門的サービスの提供が能力的に困難な場合は、コンサルテーションやスーパービジョンを求め,必要に応じて紹介することをためらわない。

2.2 自己の限界を認識することについての規準

① 自分の個人的および職業的ライフスタイルを自己管理する。

② 自分自身の専門能力を損なう可能性のある健康関連、またはその他の個人的な問題を認識したときには、専門家に相談、または支援を求めるようにする。

③ 疾病や年齢など、非難されるべき事情でなくても、自分の専門能力が著しく損なわれた場合は臨床活動を控える。

④ 他の会員に、健康関連、またはその他の個人的な問題を抱えている可能性を察知した場合は、専門家に相談,または支援を求めるようその会員に勧める。また、その会員が問題について認識できないような場合には、適切な機関に通知することを検討する。

3.責任の原則

会員は、クライエントや関係者、および社会に対する責任を自覚する。

3.1 一般的な責任に関する規準

① クライエントの利益に資する専門的サービスを提供する。

② 個人的および職業的不正行為を行わない。

③ EMDRを用いた介入の潜在的なリスクについて配慮する。

3.2 専門的サービスの終了と継続に関する規準

① インテーク時(またはできるだけ早い時期)に、専門的サービスが終了する条件を明確にするように務める。

② クライエントが介入の継続によって利益を得ていないと判断した場合は、クライエントと合意の上で専門的サービスを終了させる。

③ 必要な場合には、適切な支援先に紹介することを検討する。

4.品格の原則

会員は、誠実さ、正確さ、明快さ、公平性などを重視し、セラピストとしての品格を保つ。

4.1 誠実さと正確さに関する規準

① 日本国内においてEMDRのトレーナー、コンサルタント、臨床家資格の名称は日本EMDR学会の認定を受けた会員のみが使用することができる。

② 資格と能力について正確に伝え、虚偽の表現をしない。

③ インテーク時に専門的サービスを提供する上での費用および支払方法についてできるだけ具体的に伝える。

4.2  利益相反を回避するための規準

① 会員は基本的にクライエントとの利益相反となるような関係を形成しない。潜在的に発生する可能性がある場合は、クライエントや関係者にその内容を開示する。

② 会員自らの性的、個人的、財政的、その他の利益のために、クライエントとの専門的関係を利用しない。

③ 専門的サービスが終了した後も、専門的責任は継続することを認識する。

4.3  個人的な境界を維持するための規準

① クライエントやトレイニーおよびコンサルティーに対して、恋愛関係または性的な関係にならない。

② 対人関係や組織、グループにおける権力構造と緊張について認識を高め、パワーハラスメントをしない。

③ その他、望ましくない言動や身体的行為など、あらゆるハラスメントを行わない。

Ⅱ 倫理違反への対応

会員が本倫理綱領を遵守しない場合(以下「倫理違反」という)は、下記の通り対処する。

 

  1. 会員は、倫理違反を行っていると思われる会員に可能な限り注意を促す。
  2. 会員の倫理違反を察知した者は、何人でも本学会倫理委員会等に報告することができる。
  3. 倫理違反を訴えられた会員は、調査が行われる場合、全面的に協力しなければならない。
  4. 倫理委員会から報告を受けた理事会は、倫理違反を行っていると思われる会員に対し、会則第38条に定める通りの処分を行うことができる。
  5. 理事会は、倫理違反を行なっている会員の属する職能団体に、当該倫理違反行為を報告することができる。
  6. 上記の手続きに関しては、3項の調査、4項の処分理由等の会員への告知、5項の報告において、できるだけ倫理違反の被害者などのプライバシーの保護に努める。

2020年10月29日

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