ニュースレター 第23号 2011年 冬

目次

東日本大震災の支援活動(続報)
WEBによる支援とみどりの東北元気キャンプ
-報告と今後に向けてー
JEMDRA-HAP について
被災地からの報告
EMDR Part1トレーニングを終えて
新理事就任挨拶
編集後記


東日本大震災の支援活動(続報)

市井雅哉
日本EMDR学会理事長

 震災のあった2011年が終わり,新しい年を迎えた今,死者15844人,行方不明者3450人,避難者334786人(2012年1月6日現在)となっている.先号では,海外からの支援を得て,第6回学術大会での地震津波被災者支援の継続研修を実施する時点までの情報をお伝えした.
その5月の東京飯田橋での第6回学術大会の折,J-HAP(人道支援プログラム)委員会が立ち上げられ,東北でのトレーニングの開催,part1とpart2の間をつなぐためのコンサルテーションや勉強会などが計画,実施されていった.
時系列で記すと,
8月5-7日 part1トレーニング(於山形市の生涯学習センター遊学館)は73名の参加, 内被災地関係者 16名
8月8日 地震津波被災者支援の継続研修(於山形テルサ)参加者49名,内被災地関係者 8名(講師は市井雅哉,太田茂行,北村雅子,仁木啓介).
9月18日 J-HAP委員会の活動として,仙台でコンサルテーションと実践報告,実習の研修会(於東北大学医学部,講師は市井雅哉が担当).参加者は計8名(宮城県5名,岩手県1名,福島県1名,新潟県1名).宮城県の児童精神科医小野寺滋実会員が子どもの2症例を呈示して下さった.
10月6日 盛岡での勉強会では,白川美也子のケースや鈴木廣子会員のSV,6名で実習が実施され,その後も隔週ペースで白川理事(=J-HAP委員)が岩手晴和病院を中心に県沿岸部の支援に入っている.
10月30日におこなわれた,J-HAP委員会の仙台でコンサルテーションと実習の研修会(於東北大学医学部,講師は市井雅哉,太田茂行,仁木啓介が担当).参加者は10名(青森2名,岩手1名,宮城4名,群馬2名,新潟1名).前回の小野寺先生と宮城県の臨床心理士東海林渉先生による3つの事例.
11月20日J-HAP委員会の地震津波被災者支援の継続研修(於仙台青葉カルチャーセンター)は合計19名(青森1名,岩手2名,宮城5名,福島1名,その他の地域10名),講師は,市井,太田,仁木が担当した.

11月21~23日 Part2トレーニング(於ハーネル仙台)で参加者63名(東北からは,青森県4名,岩手2名,宮城7名,山形4名,福島1名で合計18名).

また,J-HAP委員の新井陽子会員が秋以降,福島県に毎週SCとして通っている.
さまざまな活動が展開されていると思う.しかし,これで十分なのかはわからない.残念ながら,志のある多くの会員を有効活用できているとは思えない.よく,阪神・淡路大震災の時の支援と比較されるが,地元のマンパワー不足は否めない.したがって,時間が経つにつれて,地域の支援者に任せて行くという図式にまだまだ乗りにくいのではないだろうか? J-HAP委員会もロゴマークがようやく決まり,資金造成の作戦を準備中である.
今年も,東北を意識しながら,息の長い支援を,模索しながら続けていきたい.


WEBによる支援とみどりの東北元気キャンプ
-報告と今後に向けてー

小林正幸
東京学芸大学 教育実践研究支援センター

筆者は,大震災直後の3月17日に,子どもの心のケアに携わる教師,支援者に向けた後方情報支援サイトを立ち上げました.Web上のホームページ<http://for-supporters.net/>とフェースブック<https://www.facebook.com/cocorocare>を用いての展開でした.これは,教師など支援者に向けた「電子メール相談」,今回の災害の特徴に合わせた子どもの心のケアの理解や指導に関わる教師,支援者に特化した「コラム」による情報提供,そして,支援者向け,保護者向けの「各種リンク集」を作成,支援するものです.

夏には,原発事故災害で地元に住めなくなった子どもたちのために,福島の裏磐梯で仲間と再会する「みどりの東北元気キャンプ」を企画しました.「世界一心の温まるキャンプを福島県でやりたい」とのキャッチコピーのもと,2回を終了しました.キャンプの子どもの参加者は,2回の実施で,160名を数えた.このキャンプは,全て募金によって成り立つものです
<http://cocoro-care.net/>.

このキャンプでは,心理専門家スタッフとして,本学会の後援をいただいただけではなく,理事の皆さんに技術支援をいただきました.感謝申し上げます.

11月から何度かにわたって,岩手の津波災害地区での保育士,幼稚園の教員や福島県の研修会,保護者へのコンサルテーションなどの活動を重ね,適宜,R-TEPやEMDrを施行し,1回の介入で,顕著な改善を得た事例をいくつか体験してきています.

さて,今後の展開ですが,夏のキャンプについては,今年と同様に2回実施します.これに加え,現地,福島の実行委員会を組織してもらい,ノウハウを地元の有志に伝達研修し,地元有志が主体で実施するキャンプを新たに2つ実行するべく準備を重ねています.

サイトでの支援も,IT会社の支援を得つつ,特定の被災地特化したイントラネットでの支援を行うべく,試行錯誤を重ねています.


JEMDRA-HAP について

北村雅子
川越心理研究相談室室長
つくば福田クリニックカウンセラー

 みなさま既にご承知のように, 日本EMDR学会は2011年3月 11日より発生した東日本大震災をうけ,人道支援プログラムの組織を第6回日本 EMDR学会東京大会において立ちあげました.これは米国にあるEMDRIA-HAPを初め,災害,戦争・紛争などがあった世界各地の人々を苦しみから救援するためにできた地域のEMDR-HAPと呼応,連携しています.具体的活動は市井先生の活動報告にお任せし概要をご報告します.

1.名称:日本EMDR学会人道支援プログラム(Japan EMDR Association-Human
Assistance Program: 略称JEMDRA-HAP)

2. 組織と構成員:当面,学会の一委員会とし,構成員は,心理療法EMDRを学習し,訓練し,使用する支援専門のセラピスト,あるいは,日本EMDR学会会員の有志とする.

3. 設立日:2011年5月13日東京大会会場にて.(EMDRIA-HAP ,Israel-HAP, Mexico-HAP等国際協力の下で大震災発生以降2カ月間緊急学習された「緊急時の対応訓練」が,翌14日終日日本語で行われEMDRセラピスト250名が参加しました.)

4. 使命: 自然災害と人災とを問わず災いで苦しむ人々を苦しみから解放すること.
(自然災害でも人災でも苦しみは苦しみをつくり,暴力は暴力につながりがちです.こうしたサイクルや世代間伝達が断たれ希望と夢のもとで生きられるようにすることが世界のHAP共通の使命であり夢です.)私たちもこれを共にします.

5. JEMDRA—HAP の活動内容
①精神保健専門家の養成:HAPのチームは,災害で苦しむ地域の機関と連携し地域の精神保健の専門家たちに減額してEMDRの訓練を行い,継続的フオローアップをして地域を援助できるEMDRセラピストを養成します.
② 地域援助活動の為にトラウマの2次災害を受けた医療関係従事者,自衛官,消防官,警察官,公務員,建設業者その他の専門職の方々の速やかな治療,症状軽減の為にEMDRセラピストを迅速に派遣します.
③ 災害地域の方々のトラウマ治療や症状軽減のためEMDRセラピストを迅速に派遣します.

6. 運営委員と事務局
委員長:市井雅哉 委員:白川美也子,近藤千加子,北村雅子,新井陽子 事務局 〒673-1494 兵庫県加東市下久米942-1 兵庫教育大学 発達心理臨床研究センター内 TEL&FAX::0795-44-2278(研究室),2285(センター)

HAPロゴマーク

みなさまの積極的な寄付をお願いします!

振込み先 三井住友銀行 六甲支店 普通 4370439 名義:日本EMDR学会 HAP委員会  「ニホンイーエムディーアールガッカイ ハップイインカイ」
所在地:事務局に同じ e-mail: info@emdr.jp


被災地からの報告

小野寺滋実
宮城県子ども総合センター

 この度の大震災に際して,全国の皆様から多くのご支援を頂きましたこと感謝申し上げます.当センターは,普段は児童精神科のクリニック,児童デイケアを行っています.震災後はそれに加えて,県内沿岸部での巡回相談や学校,幼稚園,保育所等での講話等も行っております.今回は,それらの活動を通して得た情報を中心にご報告致します.
子ども達の体験の内容は,様々ですが,中には凄まじい体験をした子ども達がいます.津波が来て,洗濯機の中にいる様な感じで押し流され,木にひっかかって何とか助かったとか,保育園で被災し屋上に避難し,雪の降る中毛布に包まっていたが,その後,周囲で火災が発生し,煤だらけになりながら一晩明かして,翌日自衛隊に救助されたとか,また別の園児は,園で被災し津波を避け山まで逃げたが,そこで家や遺体が沢山流されて来るのを目撃したとか,また別の子は,家族と共に車で避難最中に津波に流され,たまたま割れた窓から,外に出され,子ども一人だけ助かったが,他の家族は亡くなったとか.恐怖感や悲しみに圧倒された子どもたちが沢山います.
あと気になるのは発達障害の子どもたちで,落ち着かず騒いだりするため,避難所にいられず,車の中で過ごしたり,ライフラインが復旧していなくても壊れかけた自宅二階に戻った方や,他には親戚宅に避難した方も多かった様です.仮設住宅に移ってからも,音や声が周囲に聞こえるため,隣近所から苦情が出てしまい,そのため日中はできるだけ長時間保育所に預けているという方もいます.発達障害の子ども達でも安心して自由に遊べる空間や,長時間預かってもらえる場所が望まれています.
元々,広い家に住んでいた子も大人も,仮設の狭い家に移ってそのギャップで大変なようです.子ども達がのびのびと遊べる場所が必要とされています.また,住民間の交流を図るための催し物を定期的に開催し,大人も子どもも老人も共に交流し,孤立させないように動いている保健師さんもいました.
凄まじい体験をしたにも拘わらず,何事も無かったかの様に平然と学校生活を送っている子もいて,先生方は却って心配していました.いつか大きな反応が起こるのではないか,今何かしなくて良いのか.その答えは,なかなか難しい.子どもたちの心の中にどんな体験が刻まれているのか,想像を超えたものがあるように思います.
子ども達の心の相談を受けた場合,家族の状況を含めた全体像を評価し,最適な関わり方を見つけ,適応があればより適切にEMDRを実施して行くのが,我々現地支援者の使命だと思います.9月からのJ-HAPの活動に支えられて,良い形でEMDRを展開できた経験をさせていただきました.今後もご支援よろしくお願い致します.なお当センターは,子どもだけではなく,子どもに関係することであれば親の相談も受けております.適宜,ご利用下さい.


EMDR Part1トレーニングを終えて

山下由紀子
甲南大学大学院人文科学研究科人間科学専攻

 EMDRPart1トレーニングを昨年2月に終えましたので,報告させていただきます.トレーニングを受けるきっかけとなったのは,指導教員の勧めでした.博士課程に進学し,臨床心理士試験に合格したばかりの私は,まだ職にもついていないため,理解できるものなのか,とても不安がありました.しかし,トレーニングに申し込んだにも関わらず,定員オーバーのため受けられない人がいることを知り,患者さん,クライエントさんのためにスキルを学ぼうとする参加者の先生方の姿勢を目の当たりにし,初心者の私が受けられる幸運を逃してはいけないなと思い,トレーニングに臨みました.実際,市井先生の講義はわかりやすく,スライドは視覚的な配慮がなされており,わかりやすいものでした.また,症例をあげつつ説明がなされるため,実践経験の少ない私にとってとても理解を促進してくれるものとなっていました.それでもなお,講義で教えていただくこと,ビデオの中で起こっているクライエントの変化は信じがたいものでした.トラウマの処理があんなにも早く,適応的に変化しうるものなのだろうか,クライエントのサービスではないのかと疑問は続きました.実習はそのような疑問を一掃するものであり,実際にペアになった方がとても適応的な認知に変わり,「人間ってすごい」「EMDRってすごい」と思いました.他の実習ではスムーズにいかないときもありましたが,ファシリテーターの先生から「こうしては」とアドバイスが入ると,処理はみるみるうちに進み,臨床現場で実際に使えると思えるような体験ができました.
また,実習を通して,ファシリテーターの先生方が臨床家として患者さんやクライエントさんとどう向き合っているのかが垣間見え,私にとってとても刺激的で学ぶべきことの多いトレーニングになりました.Part1を終えて,臨床現場でできることが増えると,できないことが見えて悔しい思いをすることが増えました.次はPart2を受講し自分の幅を広げていきたいと思います.
市井先生はじめ,ファシリテーターの先生方,スタッフの方々,一緒に参加された先生方すべてに深く御礼申し上げたいと思います.ありがとうございました.


新理事就任挨拶

近藤千加子
ディーパ心理オフィス代表

 このたび新しく理事に就任させて頂き,人道的支援をするHAP(JEMDRA‐HAP:Japan EMDR Association‐Humanitarian Assistance Prog-rams)委員会の委員をさせて頂くことになりました.HAPの活動については,北村先生が別稿に記述されていますのでご高覧下さい.私はロゴ作りに関わらせて頂きましたが,さまざまな先生方やデザイナーさんのアイデアにより素敵なロゴができましたので,この機会をお借りして紹介させて頂きます.赤い丸は,今後,世界を視野に入れ日本を象徴する日の丸をイメージしています.種をくわえた鳥は,EMDRのトレーニングの最後に話される“美しい花を咲かせる奇妙な種”を運ぶイメージで,緑は生命の色を象徴しています.今後は,HAPの発展のためにロゴ入りTシャツなどのグッズ販売も計画されていますので,皆様どうぞよろしくお願い申し上げます.
人々が苦しみから解放され楽になるための支援を継続していくことで,EMDRがより広く世の中の役に立つ心理療法として確立されていくと思います.微力ではございますが,この方面で少しでも貢献させて頂ければ幸いです.今後とも何卒よろしくお願い申し上げます.

海野千畝子
兵庫教育大学


 この度,春の選挙において新理事として任命された海野と申します.役員の業務としては,兵庫教育大学所属である縁から母体である学会事務局をお手伝いさせていただくことになります.事務簡略化,効率性の側面から市井先生をバックアップできればと思っております.
 また,臨床においての抱負は,虐待を受けたこどもへのEMDRの発展に寄与できるように努めていきたいと思います.児童養護施設において,虐待を受けた子どもたちに安全なトラウマ治療ができるように,そのシズテムづくりや施設心理士の養成を含めて,包括的な視座でEMDR実施を考えて行きたいと思っています.微力ではありますが,どうぞ宜しくお願い致します.

竹内 伸
さきお英子子ども心のクリニック

 今年度から新たに理事を勤めさせていただく
ことになりました.昨年は東日本大震災があったこともあり,その中で学会内にHAPが作られるなど,EMDR学会としても大きな変化を迎えていると思います.世の中の歴史の長い大所帯の学会とは違いますが,EMDR学会も会員数が年々増えてきており,昨今のPTSD治療への関心の高まりもあり,ますます広まって行く途中にあると思います.
 また近年新しいPTSD治療が増えてきている現
状を見ますと,EMDRはPTSD治療の中ですでに新参者ではなく,先駆者であり経験者としての立場があるのだろうと思います.このような日本におけるEMDRとEMDR学会が「新しい」「一部の人の」ものであった状態から,より広く知られた,中堅のものに変わっていこうとする時期に,理事として参加できることを大変うれしく思っております.自分自身の中では,2010年からファシリテーターを勤めさせていただいていることもあり,新しくEMDRトレーニングに来ようという人や,EMDRトレーニングを受けたあとで,臨床で使えるようになるためのプロセスを,よりスムーズにできるよう,何か出来ればと思っております.
皆様のご意見ご協力,よろしくお願いします.

上田英一郎
大阪医科大学皮膚科学教室

 この度,新しく理事として広報を担当させていただくこととなりました.よろしくお願いいたします.私は皮膚科医ですが,アトピー性皮膚炎をはじめとする心身症と呼ばれる皮膚疾患,背景因子としてトラウマの関与している疾患にEMDRなどのトラウマケアの技法を用いることによって,心身両面からの統括的な治療法の確立を目指して臨床に取り組んでおります.現在,災害のトラウマなどに対しては,こころのケアがより一層注目されるようになって来ています.しかし,「身体疾患,特に慢性疾患が患者の心に及ぼす侵襲がどれほど大きいかはまだ充分に認識されていない」とシャピロ博士もその著書に書いておられますように,身体疾患をトラウマの原因とみなして対応している医師はほとんどおりません.今回の震災や津波,放射線被害などPTSDと診断できるような病態へのEMDRを用いた治療に関する情報発信はもちろん大切です.

それに加え私は,身体疾患に苦しむ患者の中にもトラウマケアを行わないと症状が改善しない者がおり,私たちが実践しているような治療や診たての必要性をもっと社会に発信し,医師と心理士が協力した時に発揮できる力について示していきたいと考えております.東北キャンプ 微力ではありますが,EMDRの更なる発展に少しでも寄与できればと考えております.どうぞよろしくお願い申し上げます.

 

世界一心の温まるキャンプ in 福島(小林正幸提供)


* 編集後記 *
今号よりニューズレターの担当を引き継ぎました.一部紙媒体も残しておりまが,PDFでの配信となりました.編集作業も初めてのことで,配信が遅くなりましたことをお詫び申し上げます.充実した誌面を目指し頑張っていきますので,ご協力の程よろしくお願いいたします.(E.U.)


日本EMDR学会 ニュースレター 第23号 2011年 冬 PDF版のダウンロードもできます

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