ニューズレター第28号 2014年冬

目次

 


巻頭言

日本EMDR学会理事長
市井雅哉

 2015年という新しい年を迎え,新年のお慶びを申し上げます.

 さて,今年は学術大会が第10回を迎える節目の年です.このニューズレターでも先号や今号で紹介されているように,ベーシック・コンサルテーションやトレーニングの改訂などEMDRの進化・変革が今着実に進行中です.

 アメリカでは2007年からこうした進化・変革が始まりました.アメリカには多くのトレーナーが存在し,EMDR研究所以外にも数多くのトレーニングが実施されています.それだけトレーニング受講者が増えているのに,結果的に修了者の実践が伸びていかないことが大きな課題でした.いわゆるペーパードライバーの存在です.そこで,より丁寧なトレーニング,本当に実践を支援する体制へ,着実に使う人を養成する形に変わったと言えましょう.しかし,日本にはこの進化・変革がなかなか適用されないまま,年月が過ぎました.アメリカに比べると私しかトレーナーがいない状況があり,コンサルタントの数も決定的に不足しています.

 一方,2013年のTV放送,また,WHOのガイドラインの発表以降にEMDRのニーズが急速に高まり,トレーニングへ受講希望者が殺到する状況が生まれました.1回,2回とキャンセル待ち頂いての受講という方も珍しくない状況です.社会のニーズは確実に高まっています.それに応えられる質の高い治療者を養成することは使命でしょう.

 もう一方で,EMDR Asiaの発展も言わば外圧の形で作用しました.会長のSushma Mehrotra(インド)のがんばりがあって,アジアでのトレーニングの基準ができあがってきました.EMDRIAやEMDR Europeと変わらない高いレベルの基準です.アジアの中ではEMDR先進国の日本が後から始まった新進の国々より低い基準のトレーニングを続けることは許されないと思いました(何とインドの国内学会は今年の3月に第1回大会をニューデリーで開催にようやくこぎつけたのです).

 今年はこの変革・進化を着実に乗りこなすことが求められています.Weekend2の改訂作業は来年までまたがりますが,EMDRのトレーニングはこの2年間で,安定化し,さらに,拡大していくと期待しています.現在のコンサルタントのがんばりにも期待していますが,新たにコンサルタントを目指す人が増えて欲しいです.みなさんの熱いご支援をよろしくお願いします.

 


日本EMDR学会第10回学術大会及び
臨床スキルアップワークショップ(継続研修)にむけて
「EMDR:基礎から応用そしてその未来
ーふりカエル,そしてさらにつカエル」

学術大会準備委員長 小林正幸

 来年5月に第10回学術大会の開催をご案内申し上げます.第10回という節目を迎え,今までEMDRを学んでくださった皆様,初心者から上級者までが基礎を固めつつ,さらに困難なケースに対応できるようになるために企画しています.

 外国人講師として,Andrew M. Leeds博士をお迎え致します.講師はEMDR研究所のシニア・トレーナーで,急性,慢性のPTSD,不安障害,解離性障害,嗜癖行動,うつ病,および対人関係カウンセリングの診断と治療を専門としています.日本を含め欧米各国で60以上のトレーニングやカンファレンスペーパーをものし,日本では黎明期に毎年トレーニングを行い,今回で11回目の来日になります.過去に直接の指導を受けた会員も多数おります.30年以上カリフォルニアで臨床心理士として個人開業しており,電子ジャーナルのTraumatologyの編集委員,EMDR研究所のディスカッションリストのモデレーターを歴任されました.

 午前・午後に特別講演やシンポジウムおよび一般演題を,午後の後半にはAndrew M. Leeds先生による「EMDR治療による防衛と情動の再構成」(仮)の特別講演を予定しています.ワークショップは,「EMDR:基礎から応用そしてその未来」と題して,臨床スキルアップワークショップを行ないます.内容には,2007年に行なわれた中級研修に最新のホットな話題を加えたものとなります.初心者はステップアップに,上級者は基礎スキルの見直しに,さらにLeeds先生の真骨頂である情動調整やアタッチメントスタイルの見立て,防衛に対する対応などを加え,基礎から応用そしてその未来というテーマにふさわしい内容に構成したいと思います.

日時


2015年5月22日(金)学術大会
2015年5月23〜24日(土・日)「EMDR:基礎から応用そしてその未来」臨床スキルアップワークショップ
3日間とも午前9時〜17時(初日,2日目は受付8:30,開始9:00)

場所


2015年5月22日(金):飯田橋レインボービル
2015年5月23〜24日(土・日):早稲田国際会議場

内容


2015年5月22日(金)午前・午後:学会長講演,シンポジウム,口演発表,ポスター発表,夕方:特別講演
夜:懇親会
2015年5月23〜24日(土・日):臨床スキルアップワークショップ
定員:400名

学術大会演題募集


発表時間は口演30,60,90分,ポスターの4コースを予定しています.詳しくは,日本EMDR学会ホームページをご覧下さい

 


新Weekend1トレーニングについて

ディーパ心理オフィス
近藤千加子

 2015年で日本EMDR学会は10周年という節目を迎えるとともに,日本におけるEMDRトレーニングも新しい時代に入りつつあります.

 既に名称はこれまでのPart1,Part2トレーニングからWeekend1,Weekend2トレーニングに変更されたことは周知のとおりです.また,それぞれのトレーニング後に5時間のグループコンサルテーションがつくようになりました.コンサルテーションは,実践でEMDRを使っていくうえで欠かせないものです.これまでは,トレーニングは受けたけれど実際の臨床に使っていない方も多くいらっしゃいましたが,これからは,コンサルテーションで自分の困っているところを相談したり,他の方の実践例を聞くことで,使えるEMDRになると思います.

 2014年10月のweekend1からは,トレーニングの内容も一新されました.最も大きな違いは,実習のセラピスト役が,クライエント役の方の現在の問題について,過去のターゲット同定から現在の引き金・未来の鋳型まで治療計画をたて,それに沿って実習することです.今までは,毎回違うファシリテーターがつき,セラピスト役とクライエント役も違う相手と組んで実習を行っていましたが,今後は,3日間を通して同じファシリテーター・セラピスト役・クライエント役で行うことになりました.また,これまでのトレーニングマニュアルには実習用ワークシートが一緒についていましたが,新トレーニングマニュアルでは,実習用ワークシートが別冊になり使いやすくなりました.さらに,マニュアルの内容もより詳細に具体的な記述となっています.一言でいえば,新しいトレーニングは,より実践的・臨床的なトレーニングに生まれ変わりました.これらは,あくまでもトレーニングの刷新ということですから,すでに臨床でEMDRをお使いの皆様におかれましては,コンサルテーションや研修での研鑽で十分ですのでご安心下さい.weekend2のトレーニング内容の刷新につきましては,2016年夏が予定されています.

 末筆ながら,新トレーニング準備に献身的なご尽力を賜っている菊池安希子先生・大澤智子先生はじめ諸先生方に心から感謝し厚く御礼申し上げます.

 


各地方勉強会のご紹介(4)
 EMDR講習会受講者の増加にともない,継続的な研修のための勉強会が各地方で行われるようになっています.これまで,「東北EMDR勉強会」「関西EMDR勉強会」「EMDR東京勉強会(TSG)」「九州勉強会(KSG)」「北海道EMDR勉強会」と「北信越EMDR勉強会」を紹介させていただきました.今回は,「東海EMDR勉強会」を紹介させていただきます.各会とも事例検討や魅力的な講師を迎えての講習会を企画されています.詳しい案内は日本EMDR学会のホームページに掲載されていますので,奮ってご参加下さい.https://www.emdr.jp/
 次回は,「中国EMDR勉強会」をご紹介する予定です.

 

「東海EMDR勉強会」のご紹介

岐阜県総合医療センター
緒川和代

 東海EMDR勉強会の歴史は古く,発足は2003年の夏でした.その年ともにPart2研修を終えた東海地域の3名が,自分達が学んだ知識を失うまいと復習する機会として発足したものです.当初は月1回名古屋市男女平等参画推進センター(現イーブル名古屋)に集まってお互いで手順を実習してみるなど細々と続けていましたが,毎年Part1やPart2を終わられた方々や,沖縄で市井先生のもと勉強されていた方などが加わるようになり,年1回の大きな勉強会を開くようになりました.大きな転帰を迎えたのは,近藤千加子先生が東海地域を牽引してくださるようになったことと,東海地域に福井義一先生が異動されたことでした.地域にファシリテーターの先生がいらっしゃることで勉強会にも活気があふれるようになり,現在の形のように山際クリニックでの事例検討会や,年間3回多くの著名な先生方に最新の話題をお話していただく研修会を開くまでになりました.今では地の利をいかして東海北陸だけでなく全国の方々が参加してくださる会となり,スタッフも6名となって賑やかに企画運営をさせていただけるまでになりました.私事で恐縮ですが,事務局の歩みと共にプライベートで妊娠・出産などのライフイベントを経て成長でき,またEMDRを通してトラウマの概念から人間観に至るまで学び臨床の礎を築け,とても充実した10年を過ごさせていただきました.

 これからも同じ学びを分かち合える場として,新しいインスパイアを得られる場として,多くの方々に東海EMDR勉強会をご利用いただけたらと思います.勉強会はメーリングリストでご案内しております.皆さんを地域にお迎えして交流できますこと,スタッフ一同こころよりお待ちしております.

 


EMDR Weekend 2トレーニングを終えて

大阪市・大阪府・堺市スクールカウンセラー
神戸少年鑑別所 教科指導員
土田 圭伊子

 小職は臨床心理士で,2008年にPart1を修了し,ようやく今年,Weekend2(Part2)トレーニングを受けました.その間は主に,小学校から大学の相談室や児童養護施設で心理治療をしておりました.EMDRを用いたイニシャルケースは,小学1年生の児童が,たった1セッションの眼球運動で,教室での失敗体験映像から,友達が笑顔で待つ映像に再処理ができ,入れなくなっていた教室にすんなり入るという劇的な結果で,当時,EMDRにまだ懐疑的であった小職を驚かせてくれると共に,EMDRを実践に多用する契機となりました.

 さて,Part1のトレーニング内容は,皆さんがご存知のようにEMDRの背景や概要を学び,手続きに従って両側性の刺激を与えて記憶の再処理を行うもので,臨床場面では,単回性のトラウマや,肯定的認知などのリソースが基盤にあるクライエントに用い易いものでした.換言するならば,被虐待児など,重篤で複雑性のトラウマをもつ,或いは,リソースが少なく否定的な認知に偏り易いクライエントの方に用いることは難しく,そこに治療すべき重いトラウマがあると分かりながらも,なかなか手が出せない場面も多々ありました.しかし,Weekend2では,認知の編み込みなどを用いて,その時に生じた否定的な認知に対してリアルタイムに働きかけることでクライエント自身がとても能動的にトラウマ記憶の再処理を行っていくことができます.

 では,Weekend2を修了後のイニシャルケースを,匿名性を保ちつつ内容が損なわれない範囲でご紹介いたします.

 中学1年の女子が,担任に勧められ,不登校を主訴に来談.詳しく状態を聞いていくと,最近,同級生から陰湿ないじめに遭っていたこと,小学4年生から何故か登校にはかなりのエネルギーが要ったことが分かりました.また,“やられたら,やり返せ”という親の言葉に,彼女はそれ以降,やられる自分が悪いのだと思い込み,誰にも相談せずに,一人で悩んでいました.

 不登校の引き金となった場面をターゲットに,1回目のEMDRを眼球運動で施行.SUDsは0まで落ちるのに,VoCが5止まり.自己肯定をブロックしている信念があると想定されても,Weekend2以前は,その信念の根拠となる別のトラウマを探し直す手間がありました.それが,RDIを用いて理想モデルを使ったり,認知の編み込みを用いたりする中で,“自分は間違っていない!”と声に出した直後,VoCは9に上昇.

 とてもすっきりしたという1回目の感想を得て,2回目のセッションを行うと,本人も忘れていた,同級生に階段から突き落とされた小学4年生の頃の場面が思い出され,ここでも当時には言い返せなかった,“止めて!”の言葉が声になって飛び出しました.最後は,階段の窓枠から,静かな校庭の風景が見え,“階段がもう怖くない”“やり返さない自分は偉かったんだ”との感想で終了.学校の階段はいずれも建築構造が似ており,中学校でも般化が起こっていたと思われ,その記憶の再処理がうまくできたこともあり,今は,安定して再登校できています.

 もっと早くWeekend2を受けておけば,如何ほどの恩恵をクライエントの方々にもたらすことができただろうというのが,今の小職の感想ならびに反省です.皆さん,Weekend1で満足されずに,続けてWeekend2を受講されることを強くお勧めいたします.

 最後に,温かく包み込むセラピストとしての姿勢で,実践的に分かりやすくご指導下さいましたファシリテーターの先生方に,この場をお借りして感謝を申し上げます.有難うございました.

 


第9回EMDR臨床セミナーに参加して

さいたま市こころの健康センター
足利 安武

 EMDRをもっとうまく使いたいけど.どうしよう? そんな風に考えていたところに.今回のセミナーの案内をいただきました.セミナーの紹介には.「匠の技でミチガエル!あなたのEMDR臨床」とあります.これは.うってつけ.とすぐに参加を決めました.また.セミナーの開催地を「(どうせなら温泉で!)」とされているのにも.何やら面白そうな匂いを感じて参加しました.

 セミナーは.その期待を色んな意味で裏切らない内容でした.EMDR臨床の基礎から応用.実践まで詰め込まれた豪華な会席料理のような作りで.それでいて飾るところも無く.初心者で初参加ながらも十分に味わい.楽しみ.吸収することができたと思います.

 姜昌勲先生のオープニングレクチャーでは.診療という短い時間の中でEMDRを活用している工夫をお聞きすることができ.EMDRの可能性を見せていただきました.続いての福井義一先生の講演「EMDRを成功させる秘訣〜AIPモデルに基づいた準備と戦略〜」では.リソースを活性化させるインテークなど.先生の匠の技を惜しげもなく見せていただき.遊び心溢れるプレゼンテーションとも相まって.忘れようにも忘れられないインパクトを残していきました.翌日は.市井先生・海野先生・福井先生の3人のコンサルタントが.それぞれカラーを生かして.発表された事例に対してコメントされました.初めての企画だったようですが.先生方が事例のどういうポイントを見ていらっしゃるのかというのがよく分かり.それぞれの先生が照らす光が交差して.事例の全体像が立体的に浮かび上がってくるように感じられました.

 さらに.このセミナーの面白さは.夜の合宿のような雰囲気にもあります.狭い部屋で遅くまで先生方と膝を突き合わせて話したり.相部屋となった方と臨床談義をしたりと.学生のような懐かしさと新鮮さが味わえる充実した時間を過ごすことができました.

 こうした密度の濃いセミナーを企画してくださり.当日も丁寧な心遣いをいただいた幹事の皆様に.心より感謝いたします.ありがとうございました.

 


第10回EMDR臨床セミナーへのお誘い

代表幹事 岡崎 剛(メンタルワークス大阪)

 平成26年12月6日・7日,有馬温泉にて第9回EMDR臨床セミナーを開催され,年の瀬にもかかわらず総勢50名以上の方が参加されました.温泉で一年の疲れを癒し,飲み語りにカラオケで懇親を深め,講演に事例検討で幅広い学びを得ることが出来たのではないでしょうか.

 そして,セミナー終了後,参加者の多くの方から「来年も楽しみにしています」とのお声掛けを頂きました.来年のEMDR臨床セミナーも関西で開催いたします.幹事一同,その期待に応えられるよう,さらに趣向をこらし良質の学びと交流の場を提供できる企画を考えていきたいと思っております.詳細に関しましては,決定次第,メーリングリストなどでお伝えしていく予定です.新たな幹事を加え,来年も初学者からベテランまで楽しく学び交流できるセミナーを目指していきますので,皆様のご参加お待ちしております.

 


<今後の予定>
EMDRトレーニング
Weekend1
 2015年3月13〜15日(神戸)
Weekend2
 2015年2月20〜22日(神戸)
 2015年7月31日〜8月2日(神戸)

第10回学術大会および継続研修
日時:
 2015年5月22日(金)学術大会
 2015年5月23〜24日(土・日)臨床スキルアップワークショップ
場所:
 2015年5月22日(金):飯田橋レインボービル
 2015年5月23〜24日(土・日):早稲田国際会議場
詳しくは本文参照して下さい.

第10回EMDR臨床セミナー
日時・場所の詳細は未定(12月上旬,関西での開催予定です)

 


編集後記
年内に28号の発行を予定しておりましたが,すっかり年が明けてしまいましたが,やっとお届けすることができました.EMDR臨床セミナーもすっかり定着し,奇しくも学術大会と開催数が同じで,2015年は記念すべき第10回を迎えます.学術大会,臨床セミナーとも年々内容も充実し,参加者も増えてきていることは喜ばしいばかりです.これからも楽しく知識を増やせる企画を考え,広報していきたいと思います. (E.U.)

 

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