第9回学術大会及び継続研修会 2号通信
盛春の候、みなさまにはご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、本年6月に第9回目の学術大会を開催いたします。大会テーマ「EMDR:明日への挑戦」のもと、別紙のようにプログラムが決まりました。午前に、一般演題8演題、午後に、教育講演「事例論文の書き方」、シンポジウム「発達障害へのEMDR」、Dolores Mosquera(ドローレス・モスケーラ)先生による特別講演「自己愛性人格障害をEMDRで理解し扱う」を行います。
翌日からの2日間はDolores Mosquera先生による「境界性人格障害とEMDR 」ワークショップを行います。
Dolores Mosquera先生(Castilla y Leon心理学公立大学臨床心理学修士、トラウマ・人格障害研究所所長、EMDR Europeコンサルタント、ファシリテーター)は、重篤なトラウマ関連のケースへのEMDR適用を多数行っています。思春期矯正施設での加害者プログラムへも協力しています。オランダで感覚運動心理療法レベル2修了、心身医学と健康心理学の専門家です。人格障害、複雑性トラウマ、解離の著書が多数あり、ESTSS(ヨーロッパトラウマティックストレス学会)理事、ESTDニューズレターの編集委員を務めています。
日時:
2014年6月6日(金)9:00-18:30学術大会(一般演題、教育講演、シンポジウム、特別講演)、
2014年6月6日(金)18:45-懇親会(ラッセホール2Fローズサルーン)
タイムテーブルはこちらをご参照ください→第9回学術大会プログラム
2014年6月7~8日(土・日)9:00-17:00ワークショップ「境界性人格障害とEMDR」
(初日、2日目は受付8:30、開始9:00)
場所:
ラッセホール 〒650-0004 神戸市中央区中山手通4-10-8
(JR・阪神線「元町」駅から徒歩8分、神戸市営地下鉄「県庁前駅」下車、徒歩5分)
http://www.lassehall.com/access/ 注:宿泊はご自身で手配下さい。
特別講師:
Dolores Mosquera先生
通訳:
大澤智子(兵庫県こころのケアセンター)
菊池安希子(国立精神・神経医療研究センター)
参加費:
学会のみ8,000円、WSのみ32,000円(3日間通して38,000円)、懇親会5000円
受講資格:
(学術大会)
日本EMDR学会会員、ただし、初日の学術大会のみ、非会員(一般、学生)枠を合計30名用意します。非会員(一般)枠の参加資格は精神科医、心療内科医、小児科医、臨床心理士。非会員(学生)枠は臨床心理士養成指定大学院の大学院生。非会員の大会参加には、メール(info@emdr.jp)または、faxでの事前審査の申し込みが必要となります。氏名、電話番号、所属、資格を証明する書類のコピー、参加費内訳を明記の上、参加申し込みをお願いします。参加可非の連絡後に入金をお願い致します。)
(ワークショップ)
日本EMDR学会会員、ただし、part2(weekend2)修了者を優先します。
定員:200名
注:ワークショップは臨床心理士、日本精神神経学会の継続研修としてポイント申請の予定です。
参加申し込み:
申込フォームから手続きをした後に、参加費をご入金下さい。5月26日(月)時点で入金が確認できていない場合は当日料金となります。
振込先:
みずほ銀行 灘支店 普通 1138641 名義:日本EMDR学会第9回学術大会
【問い合わせ先】
〒673-1494 兵庫県加東市下久米942-1 兵庫教育大学 発達心理臨床研究センター 市井研究室内
日本EMDR 学会事務局 Tel & Fax: 0795-44-2278 e-mail: info@emdr.jp
教育講演:
6月6日(金)13:10-13:40
演題:
事例研究の書き方
講師:
小林正幸(東京学芸大学、日本EMDR学会編集委員会委員長)
EMDR研究は、EMDRの技法に関わる学術雑誌である。本学会の論文は、原著論文と事例研究に大きく分類される。だが、本学会では、事例研究の価値は、原著論文の価値と大きくは変わらない。
なぜなら、事例研究を通して、特殊な事例の症状や現象、あるいは変化過程の特徴、それらへの対応方法を他者の臨床知を知ることができ、今後の臨床活動に役立てることができる。 また、新しい治療法の発見やそれまで通例とされていた理論やパラダイムの見直しにもつながることも期待できるからである。技法学会であるからこそ、この事例研究の持つ臨床知を収集することは、大きな意味を持つのである。
ASDやPTSDなどのトラウマの問題に限らず、今まで、適用範囲外と考えられていた問題や対象への適用や、手順の工夫で、想定外の効果が得られた場合、幾分、実験的でも、ABABデザインのような形で他の技法との比較検討を行った場合など、その臨床の成果を、学会員で共有することは、EMDRの発展に大きな貢献を果たすであろう。
しかし、事例研究一般的に客観性・再現可能性・普遍性などの科学性が疑問視されることが少なくない。それだけに、いかに主観的な部分をなくすのかが重要となる。個々の臨床家の成果と知見が、他の臨床家に共有し広げ、学会の宝物にしていくための論文の書き方を講じたいと考えている。
シンポジウム:
6月6日(金)13:50-15:20
演題:
発達障害へのEMDR
企画・司会:
幸田有史(京都市児童福祉センター診療科)
シンポジスト:
小倉正義(鳴門教育大学)、華園力(滋賀県小児保健医療センター)
特別講演:
6月6日(金)15:30-18:30
演題:
自己愛性人格障害をEMDRで理解し扱う
講師:
Dolores Mosquera先生
通訳:
大澤智子(兵庫県こころのケアセンター)
菊池安希子(国立精神・神経医療研究センター)
司会:市井雅哉(兵庫教育大学)
自己愛性人格障害は利己的な行動や他者への共感性の欠如と関連している。この診断の患者は、自己中心的側面と他人に引き起こした苦痛への(時には表面上のみの)無関心を示す。しかし、これは、全体像の一部である。
自己愛性障害のDSMの記述は、自己愛性(大げさ、搾取、傲慢、対人的問題と激怒)の「顕在性の」特質に焦点を当て、一方、より顕在性の低いか、より微妙な「潜在性の」特質(恥に対する感受性、内向的、脆弱性の高い、引きこもる、不安になりやすい傾向)を書き落としている。これらの側面は加害者や被害者の両方に、公然と、あるいはさりげなく、表出しているかもしれない。この講演では、自己中心的、利己的態度と、共感の欠如によって特徴づけられる異なる側面をどのように概念化し、扱うのかについてEMDRモデルの視点から示す。
こうしたケースでEMDR療法を概念化するには、幼少期の経験から現在の問題までの発達的な道筋を理解することが重要である。自己愛的な特徴は、ネグレクト的な環境、慢性的な虐待、他の逆境的経験からの最終結果かもしれない。ケースによっては、過剰な賞賛に関連してさえいる。主要な養育者との愛着のさまざまな障害がもたらすのは、共感の欠如と自己中心性である。症状の根幹にある生態学的経験を見つけること(そして、処理すること)が、十分なケースの定式化にとって極めて重要である。
この講演では、自己愛性人格に見られる、これらすべての側面と治療関係の複雑さを、理論やケース症例と関連し振り返る。ケースの定式化と治療方法を示すためにビデオを提示する。
ワークショップ:
6月7日(土)、8日(日)9:00-17:00
演題:
境界性人格障害とEMDR
講師:
Dolores Mosquera先生
通訳:
大澤智子(兵庫県こころのケアセンター)
菊池安希子(国立精神・神経医療研究センター)
司会:
市井雅哉(兵庫教育大学)
境界性人格障害(BPD)は、臨床家に大きな挑戦を投げかける。この診断の患者は、衝動的、反応的、感受性が高いことが知られている。彼らはしばしば、ハイリスク行動、自殺念慮、自殺未遂の既往やリスクを呈する。この対象のマネジメントに際しては、逆転移の問題を考える必要がある。
このワークショップは、AIP(適応的情報処理)、愛着関連の心の状態、人格の構造的解離理論(TSDP)を統合して、BPDのケースの定式化を与える。TSDPにおけるさまざまな恐怖症に関連した防衛の役割を認識できるようになることの重要性を強調することになるだろう。そして、これらにEMDRでどのようにアプローチするかを呈示する。他の新しい側面は、治療者の感情恐怖症が潜在的に果たす役割についてである。境界例の患者は、臨床家に強力な逆転移問題を生み出しうるし、EMDRによって患者の中で強い感情が動き出す可能性がある。したがって、臨床家にとって重要なのは、注意を怠らず、自身とBPD患者両方における感情恐怖症への防衛反応を認識できるようになることである。
時には、EMDRの訓練を受けた臨床家が、患者の症状(治療関係の中で頻繁に呈する困難も含む)と、彼らの育った発達早期の環境(愛着の混乱と、深刻な外傷的出来事の割合の高さが特徴)を結びつける糸を確立するのが難しいことがある。ビデオを通して、どのように、現在の症状からEMDR処理の核となるターゲットへと行くのか、そして、どういう時には、代わりに防衛を扱うのかをお示しする予定である。