ニューズレター第30号 2015年冬

目次

 


巻頭言にかえて
2017年4月第3回EMDRアジア(中国・上海)大会へ参加のお誘い

日本EMDR学会理事長
市井雅哉

 2016年の第11回の国内大会の申し込みがちょうど始まったタイミングですが、2017年4月21-23日の上海大会へのお誘いをしたいと思います。太田理事からすでにお知らせが3月にメーリングリストに流されていますが、もうワンプッシュしたいと思います。2010年にインドネシア、バリで第1回大会が、2014年にフィリピン、マニラで第2回大会が開催されました。第1回大会は日本からの参加者・発表者も多く、欧米からの参加者も大勢いて、大変活気あふれて盛況でした。それに比べると第2回大会は、日本からの参加者はわずかに2名、また、欧米からの参加者も少なく、全体的には期待はずれのものでした。世界各地でEMDRの認知が進み、EMDR治療者がどんどん増えている状況の中、この第2回大会は残念な感じを禁じ得ないものでした。そんなわけですから、第3回大会は、是非とも成功させたいと考えているわけです。

 EMDRアジアは、EMDRIA(実質EMDR-USA)が今年21回大会を迎え、EMDR-Europeも17回を迎えるのに比べるとまだまだおぼつかない足取りのよちよち歩きの様相です(スペイン語が読めないのでHPを読むのが難しいのですが、南米EMDRも第3回を迎えるようです)。

 中国におけるEMDRは、2002年に北京大学においてドイツ人トレーナーによって最初のトレーニングが行われました。その後、HAP-Europe、HAP-USAなどが小規模のトレーニングを行いました。四川大地震(2008年5月12日)以降、両親もしくは片親を亡くした孤児の中にPTSDと診断される者が8%程度出て、26名の子どもにEMDRが適用され、自分で行う安全な場所へのバタフライハグなども教えられ、その有効性が報告されました。2008年から2010年にかけてのトレーニングを受けた上海、新華の臨床家達が2011年、2013年の地震の際には、集団への安定化技法を教えるなど活躍した。

 さて、このように、EMDRにおいては日本が中国の先輩なわけですが、この第3回のEMDRアジア大会は、当然欧米からも一流の研究者、臨床家がすばらしいプレゼンテーションやワークショップを提供してくれます。また、我々日本からも素晴らしい発表が期待されています。発表のエントリーは今年の10月31日です。発表許可は来年1月15日に来るということです。詳しくは3月13日の太田理事からのメールの添付資料を御覧下さい。多くの日本EMDR学会員が参加して、EMDRアジアを、中国EMDRを盛り上げてくれることを期待します。写真左端は今大会の会長でEMDRアジア理事のJinSong Zhang博士です(2014年1月7日マニラ第2回大会時に撮影)

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 (先日台湾を訪れた時に知ったのですが、中国と台湾は同じ漢字を使っていると思っていたのですが、中国の漢字は簡略化が激しく、台湾人には読めないとのことで驚きました。博士の名刺です。日本の漢字とも違いますね。自閉症の研究者とのことです)。

 


台湾でのW2トレーニングを視察して

ファシリテーター/コンサルタント
太田茂行

 昨秋9月29日から10月1日まで、台北で行われたEMDR第一回W2トレーニングを市井さんと共に視察してきました。主催は台湾EMDR学会(TEMDRA)です。TEMDRA理事長のPei-Li Wu (ペイリー)女史(日本の学芸大学と同様の教員養成大学教授)は2008年の日本EMDR学会第3回学術大会WS(「こどもへの忠実なEMDRプロトコルの適用」;岐阜)に単身台湾より参加されていました。一緒に長良川の鵜飼い等も楽しみましたから、覚えておられる方も多いのではないでしょうか?

 わたしはその後ペイリーさんのEMDRコンサルテーションを数年にわたりお引き受けしたり、米国でのEMDRIA大会でお会いする度にともに学びかつ遊んだり楽しいお付き合いを頂いてきました。今回、市井さんがトレーナーとしてW2トレーニング視察の必要が生じたので、わたしも友人兼ファシリテーターの一人として自主的に随行させてもらうことにしたのです。ご存知のように、現在日本でのトレーニングも新形式へと移行中であり、既にW1は変更済み、これからW2も更新予定です。新形式のW2がどのように実施されているのかを見学させてもらうのが、今回の視察の趣旨でした。

 トレーニング前日に台北に飛んだのですが、当日は台風が直撃模様となり、夕方からは暴風雨に近い状況でした。それでも太っ腹のPei-Liさんはオーストラリアから来ているトレーナーのSigmund Burzinski(愛称シギー)氏とわれわれ二人を引き連れ、ダウンタウンの中華料理屋にてご接待して下さりました。傘が何度もおちょこになる中、楽しい交歓の夕べでした。ちなみに、オーストラリアには台風はないとのことで、シギーさんは大興奮でした。

 トレーニングは参加者12名(女性10名、男性2名)と小規模でしたが、その前日までのW1トレーニング(台湾での第2回目)は20名あまりの参加者があったようです。トレーナーともども、皆さんがわれわれの見学を心から歓迎してくださったのは、大感激でした。特に事務局スタッフの皆さんには、事前のメールでの打ち合わせ段階から大変にお世話になりました。

 トレーニングの構成は、新しいW1と同様に、午前中講義と午後実習という組み合わせです。ただし、シギーさんは、ご自分の健康上の理由で昼食はとらない人なので、何と昼休憩が30分程度!という驚きの時間配分でした。冒頭に、トレーニング中の個人情報遵守のための誓約がなされました。参加者の名前をトレーナーが個別に呼んで、しっかりと眼を見て、「ここで知る個人情報は外部に漏らさない、と約束しますか?」と尋ね、返事をもとめるのです。とても印象的でした。

 講義で目立ったのは、「W1では何をどうやるかという基本技法を学びました。このW2では、なぜそうするのかを学びます。そして、自分が何をしたらいいかを考えながらEMDRを出来るようになることです」と強調していたことです。またEMDRの見立て(ケースフォーミュレーション)を指導するために、複雑な事例をだしつつターゲット選択とその順番を3分岐プロトコルに準じて整理しなおすという、基本的考えをくり返し図示していたのも、分かりやすい方法だと思いました。解離障害の事例(DIDにかなり近い)は、自分の臨床ビデオを使用して解説していました。「これらはまだ皆さんが出来ることではありません。しかし、今後経験をつんでいけば、こうしたセラピーも可能だということを是非見ておいて欲しいのです」というシギーさんのコメントが有効に感じられました。

 実習指導に際しては、トレーナーが参加者の一人をクライエントとして一時間程のリアルなセッションを皆の前で実施していました。これは、旧来の指導法とは異なるW2の重要点なのです。しかし、日本のトレーニングのように70人前後の大人数の前で、クライエントとセラピスト両者の心理的安全を担保しつつ、しかもモデリングとして有効な内容を提示できるのだろうか、と市井トレーナーともども疑問を抱きました。今後の課題です。

 最終日終了後には、とても美味しい薬膳料理店にお招き頂きました。肉類を全く使用しない精進料理で、あらためて中華料理の奥深さに圧倒されました。笑いの絶えない席上、JEMDRAからTEMDRAへささやかな寄付もさせて頂きました。さらに、EMDRをとおしての今後の日台のさらなる友好関係の発展をお約束しました。末尾ながら、あらためて、ペイリーさんをはじめとする、台湾EMDR学会の素的な仲間たちに心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました!

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終了式後の記念撮影:中央にシギーさんとペイリーさん


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市内はバイクが沢山!


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観光客であふれる故宮博物館は創立90周年!


 


EMDR Weekend 1トレーニングを終えて

川崎市立井田病院 総合診療科
高橋史彦

 以前より、精神科の先生からも『EMDRは、DSMの壁を破ることができる』と、薦められていました。 一般に、DSM-5でのPTSDの定義では、死の体験、重症体験、性的暴力への暴露を契機として、①フラッシュバックなどの侵入症状、②睡眠障害などの覚醒症状、③苦痛な記憶の回避など回避症状の3つが付随してきます。一方で、PTSDで当てはまらない、職場でのパワーハラスメント、学校でのいじめを契機として出現した上記の3つの症状が出現した症例は、DSM-5分類においては、適応障害に分類されます。私は、この分類に以前から、違和感を感じていましたが、EMDRの概念ではこれらの分類の枠を見事に超え、Tのトラウマとtのトラウマに分類し、同じスペクトラム上で心理外傷を扱えなおすという新たな試みがなされています。つまり、致死的なトラウマをTのトラウマ、死にかかわらないトラウマをtのトラウマと分類し、より実臨床に即した疾患概念を提示している点において、DSM-5を超えたと言ってもいいでしょう。そして、そのいずれにもEMDRの適応はあります。  伝統的な心理療法とは一線を画し、両側性刺激による『記憶の再構成』を促進する技法は、新しい可能性を医療分野にも投げかけます。ストレスによって引き起こされる身体症状を扱う心療内科分野においても、EMDRの応用に可能性を感じます。例えば、慢性疼痛でいえば、痛み記憶への集中が疼痛増幅する機序とする考え方があり、記憶の再構成での症状軽減が期待できるかもしれません。まだまだ、メカニズムは証明されていませんが、記憶という観点から、心身相関を説明しうる可能性を秘めています。

 現在、複雑性トラウマの患者への導入を試みていますが、複雑に絡み合った記憶を丁寧に紐解きながら、両側性刺激を継続しており、患者自らもその記憶へ積極的に向き合ってゆこうとする行動変容を始めています。今後のセッションの継続の中でどのように変化をとげてゆくのか楽しみです。

 


第10回EMDR臨床セミナーに参加して

名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野
椎野智子

 第10回EMDR臨床セミナーは、2015年12月12日〜13日に有馬にて開催された。本セミナーは毎年12月に開催されており、過去の参加者からは「自らの臨床について、一年を振り返る機会になっている」と聞いていた。私はこれまで数年間、このセミナーの開催通知を目にしながらも、師走の慌ただしい時期であり、また宿泊施設での研修ということもあり、なかなか参加する機会を得ることができずにいたが、今回初めて参加することとなった。

 今回のセミナーの1日目は、福井義一先生によるご講演「EMDRを成功させる秘訣〜AIPモデルに基づいた準備と戦略Part2〜」、2日目は市井雅哉先生、白川美也子先生、福井義一先生によるトリコロール・コンサルテーションが行われた。吉川久史先生のケース発表に対して、暖かく、鋭く、そしてトリコロールならではの、臨床実践において非常に示唆に溢れた多角的な意見が交わされた。

 懇親会では、チーム戦によるEMDRに関するクイズ大会など、初対面の者同士が親交を深められるように様々な配慮がなされており、美味しい食事と新たな出会いを楽しむことができた。二次会以降もカラオケで親睦を深め合ったり、お酒を飲みながら語り合ったり、温泉にゆっくりと浸かりながら日ごろを振り返ったりと、皆各々が心地良いひとときを過ごしていた。深夜まで語り明かした参加者も多く、これこそが本セミナーの醍醐味であると感じた者も多かったのではないだろうか。

 各地域などにおいて定期的に開催されている多くのセミナーは、毎回有意義な知見を得る機会となっているが、本セミナーはそれに加え、参加者同士の関わりが深くなることで、日ごろ抱いている想いや疑問などを率直に話し合うことができた。EMDRを学ぶ臨床家だからこそ抱いているであろう、臨床や他者に対する深い暖かさを、改めて強く感じる機会となった。

 本セミナーの開催にあたって、ご尽力いただいた諸先生方に、この場をお借りして改めて御礼申し上げるとともに、このセミナーでの学びを日々の臨床へと活かしていきたいと意を強くしている。もし今後のセミナー参加をご検討されている先生がいらっしゃるならば、是非ともご参加いただき、このセミナーの真摯な暖かさを体感していただきたいと強く願っている。

 


第11回EMDR臨床セミナーへのお誘い お知らせ第1弾

 早くも2016年忘年会のお知らせです。年末恒例のEMDR臨床セミナーを以下の通り計画しております。

 EMDRの治療者であるという1点で繋がった者同士、先人の経験を聞き自分の仕事を振り返りながら温泉につかって一献酌み交わす、また楽しからずや! Weekend1を取ったばかりの方から、ベテランの方々まで、予定表にチェックを!!!

◎とき:2016年12月10日(土)-11日(日)
◎ところ:愛知県蒲郡市 三河三谷(みや)温泉 松風園

 県内有数の古湯、自家源泉、大パノラマ露天風呂(冬ですが‥)、全室オーシャンビュー。いささか昭和の匂いがし(?)歓楽街もない(!)ので、セミナー室で交流するにはうってつけなロケーションです。

注:自販機はあるがコンビニはない。

◎スケジュール
10日 12:00開場
13:00-17:00 講演会 福井義一教授 演題-未確認・・・・乞うご期待
18:30-21:00 夕食&懇親会
21:00-24:00 2次会 カラオケ(大)会orとことんしゃべり会
11日 9:00-12:00  トリコロール症例検討会・・・コンサルタント交渉中
12時半ごろ 解散

 これまた恒例の福井先生の講義は、今までに「解離の基礎知識とスクリーニング」、「リソースの活性化」、「トラウマの脱活性化」などお話していただきました。今年はどんなテーマになるのでしょう?次はEMDR実践編でしょうか?楽しみです。

 3人のコンサルタントが切る! 症例検討は3人の識者にそれぞれのお考えに基づいてコメントしていただき、シンポジウム風に討論していただくものです。症例提示者も募集中。

◎定員 宿泊参加40~50人 相部屋になります。
懇親会50人・・・増員可かも
講演会・症例検討会には70人以上OK

部分参加も受け付けます。
個室希望の方はご自分で他のホテルへ予約していただくことになります。

◎アクセス
・東京方面から
新幹線ひかりで豊橋下車 在来線(東海道本線下り)に乗り換えて4つ目
なんと!10:33東京発【ひかり】に乗れば 12:13三河三谷駅着! ホテルバスがお迎え
・大阪方面から
新幹線名古屋駅⇒東海道本線上り,新快速など⇒蒲郡乗換⇒各停で次の駅
新大阪10:13 のぞみ8⇒名古屋発11:02 快速直通 11:46三河三谷着

参加募集は7月ごろの予定です。
ご質問、ご要望がありましたら幹事まで。   代表幹事 山森紀美子、椎野智子

三河三谷温泉 松風園のweb siteより

 


新理事の紹介

京都桂病院精神科
幸田有史

 北村雅子先生のご逝去をうけ、理事に就任しました京都桂病院の精神科医の幸田有史です。これまで児童精神科医として京都市児童福祉センターに児童相談所、療育センター、情緒障害児短期治療施設(以下、情短)の担当医として勤務しておりましたが、平成27年10月から情短の民営化に伴い、京都社会福祉事業財団 京都桂病院に移り、引き続き児童精神科医の診療業務と情短の嘱託医を続けることになりました。あわせて、成人の精神科診療もすることになりました。福祉、医療、心理等、多分野から児童虐待など社会的養護の課題をもつ子どもや、今後はその家族も、診察、治療、支援する立場になりました。評価や支援や治療の情報を、児童相談所、情短や児童養護施設、成人精神医療の先生方とより頻繁に緊密に共有してまいりたいと思っております。より良い支援や治療やシステムが子どもやご家族に提供でき、その提供を担う、各現場や多職種の皆さまのお役に立つように努力してまいりたいと思っております。さらには、子どもの親御さんが治療対象になることが今後あります。例えば、元来の発達の偏りの有無や特性評価、愛着、トラウマ歴、学校や教育での適応歴、抑うつなど精神科疾患の合併の有無、職業や社会適応の状況について評価診断し治療や方針立て、多機関や多職種連携を図る立場となりました。その中で、トラウマ関連障害についての把握し評価や診断、治療、心理や教育や福祉や医療との多職種連携が重要になってきました。EMDRの本質をふまえつつ、施設内や医療や教育や行政とクリニカルパスや共有する評価や見立てフォーマットや支援や治療の進め方が重要であると考えております。EMDRの豊かな支援の実際を今後、児童虐待の支援現場でもっと活用していきたいと考えております。

 


今後の予定

EMDRトレーニング
Weekend2 2016年8月5〜7日(明治大学駿河台キャンパス)
Weekend1 2016年秋頃の予定です

第11回学術大会および継続研修
日時:2016年6月11日(土)学術大会
   6月12〜13日(土・日)臨床スキルアップワークショップ
講師:Jim Knipe Ph.D.
場所:神戸ラッセホール

第11回EMDR臨床セミナー
日時:2016年12月10日(土)-11日(日)
場所:愛知県蒲郡市 三河三谷(みや)温泉 松風園
http://www.shofuen.jp/

 


編集後記

 4月14日、熊本で大きな地震が発生しました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。このところ日本では、地震のみならず火山の噴火や記録的豪雨など自然災害が頻発しています。EMDRと技法を通じて災害で苦しんでおられる方々に少しでも支援ができればと考えております。また、日頃より危機管理意識を高めておくことの重要性も再認識されました。(E.U.)

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