ニューズレター第27号 2014年夏
目次
巻頭言 2014年は飛躍の年.日本,アジア,そして世界へ
第15回EMDR Europe Conferenceに参加して
日本EMDR学会第9回学術大会に参加して
*** 各地方勉強会のご紹介(3) ***
「北海道EMDR勉強会」のご紹介
「北信越(旧新潟)EMDR勉強会」のご紹介
EMDR Weekend 1トレーニングを終えて
*日本のEMDRトレーニングが進化しています*
<今後の予定>
<お知らせ>
編集後記
巻頭言 2014年は飛躍の年.日本,アジア,そして世界へ
市井 雅哉
日本EMDR学会理事長
2013年はNHKのETV特集とクローズアップ現代の放映があり,EMDRへの注目が大変高まった年と言えましょう.それを受けて,今年は言わば飛躍の年になっていると言えます.学会員が1020名と1000名越えしたのも,この影響の一つの表れと思われます.2014年は1989年にEMDとして発表されてから25年目の節目の年でもあります.
今年の初めは,1月5〜7日,マニラでHAPのweekend1トレーニングのファシリテーターとして参加しました.トレーナーはインド人Sushma Mehrotra,ファシリテーターは私を初め,インドネシア人,中国人,タイ人と大変インターナショナル.日本のトレーニングは古いバージョンのため,新しくアップデートすべく下見を兼ねてでした.細かい内容は,乞うご期待ということにしておきますが,実習時間の増加(3日間とも午後全体),8段階を順を追って実習する,というような部分は日本でもぜひ取り入れたいところです.帰国後に,ベーシックコンサルテーションをSkypeを通して,英語で5時間(2+1.5+1.5時間)やりました.フィリピンとの時差は1時間ですから,時間の調整はそれほど難しくはなかったですが,なかなか前もってケースを出してもらえなくて,直接聞き取りながらのやりとりは大変でした.8名のはずが,結局5時間終えたのは2名だけという完走率の悪さ.国民性と言ってしまえばそれまでなのですが.トレーニング中の休憩時間も延び気味で,EMDRのトレーニングも,所変われば変わるものだと思いました.
続けて1月9-11日は2nd EMDR Asia Conferenceでした.2009年第1回バリで開かれたアジア会議に比べるとちょっと参加者が少なかったのは寂しかったですが,サウジアラビア,パキスタン,イラン,インド,ネパール,インドネシア,スリランカ,バングラデッシュ,タイ,ミャンマー,カンボジア,シンガポール,中国,韓国,台湾,香港,オーストラリア,スペイン,イギリス,オランダ,ドイツ,スイス,イスラエル,アメリカなど世界中からの参加者が集いました.皆さんのおなじみのRosalie Thomas, Joany Spierings,
Dolores Mosquera, Elan Shapiro,らがアジアの展望,悲嘆,境界性人格障害,R-TEPなどについて大変魅力的な講演やワークショップを開催しました.日本からの参加は私(口演:EMDR history in Japan)と大塚美菜子さん(ポスター発表:Brain blood flow responses during EMDR -A study using NIRS-)二人だけでした.ウェルカムパーティで全くお酒が出ないで延々踊りと子どものコーラスが続いたり,夕方のラッシュの電車からなかなか降りられなかったり,夜のイントラムロスを怪しげな自転車のお兄さんに案内されたりと,アジアの混沌を経験するなかなか楽しい異文化体験でした.すでに,HPではお伝えしておりますが,みなさんから預かった貴重な寄付金約33万円を,ネパールからの参加者2名(Nikish Thapa,Rupa Pradhan),インドからの参加者1名(Dushyant Bhadlikar),合計3名の方の参加のための奨学金としてお渡ししましたことをご報告します.
次の第3回は上海で2016年か2017年5月頃に開催される予定です.是非次回は日本から30名以上の参加を期待しています.
2nd EMDR Asia Conferenceで各国の参加者(中国,インド,インドネシア,タイ)と
第15回EMDR Europe Conferenceに参加して
大塚美菜子
兵庫教育大学大学院/本多クリニック
2014年6月27日~29日,スコットランドのエジンバラで開催された第15回EMDR Europe大会に参加しました.エジンバラ城近くの,石造りの建物が並ぶ美しい街並みの中に会場はありました.日本からの発表者は,兵庫教育大学の市井雅哉先生,京都大学大学院の天野玉記先生,大阪府立大学の中原由望子先生,兵庫教育大学大学院の大塚美菜子の4名でした.参加者は緑の森こどもクリニックの山森紀美子先生,名古屋市立大学の井野敬子先生,千葉駅前心療内科の木村肇先生の3名で,計7名の日本人が会場に集まりました.
27日はワークショップが開催され, Michael Paterson先生の「EMDR & Ego States」に参加しました.解離のアセスメント,ライフヒストリー聴取のポイントや,BASKの取り扱いをはじめ,壇上でのデモンストレーションやセッションのビデオを通して治療の全体像を学べる素晴らしいワークショップでした.オープニング・キーノート(Shapiro先生)では,今年は,EMDRが発表されて25年(当時はEMD)ということでEMDRの歴史が振り返られたり,今後の課題が呈示されたりと,たいへんな盛り上がりを見せておりました.
28日~29日のカンファレンス・セッションでは,天野先生の「口演:Effectiveness of EMDR for the treatment of severe behavioral symptoms of traumatic origin in patients with dementia in a later stage」,市井先生の「口演:Effect of eye movements in RDI(Resource Development and Installation) procedure」,中原先生の「ポスター:A Study of the Possibility of the EMDR Application: From an Analysis of Elderly Male’s narratives of Restore from Stigma Experience」,大塚の「口演:Changes of autonomic nervous system indices and cerebral blood flow during EMDR standard protocol」の発表が無事に終了致しました.英語での口頭発表はこれが初めてであり,今年1月に開催されたEMDR Asiaでのポスター発表とはまた違った緊張感,そして達成感を味わうことができました.発表の準備は,英語が大の苦手である私にとっては苦行そのものでしたが,ひと山越えたことで,ほんの少し,語学への恐怖感が減少したように感じました.会場に来て下さった参加者の方々も温かく,私が日本人であることを知ると「津波の被害は大丈夫だったか」「被災地の復興,被災者のケアは進んでいるか」など,先の東日本大震災のことを心配して下さる方もおられました.
全体を通して,ヨーロッパは臨床・研究ともに非常に活気に満ちており,領域ごとに研究を共同で進めるSIG(Special Interest Groups)の研究報告も盛んに行われていたことが印象的でした.
来年はミラノ,再来年はハーグで開催される予定だそうです.また少しでも研究の成果が発表できるよう,気持ちを新たに日々研鑽してゆきたいと思いました.
日本EMDR学会第9回学術大会に参加して
藤田 査織
フジタ臨床心理オフィス
2014年6月6日,神戸で開催された日本EMDR学会第9回学術大会に参加しました.
午前中は2会場で,発達障害,パニック,DV,被虐待児,不登校,DES-Tに関する8つの一般発表がありました.
私は第3回大会から参加させていただいていますが,最初の頃はEMDRを使っていなかったので,発表を聞いてもよくわからないのではないか,あるいは「は~すごいな~」で終わってしまうのではないかと危惧していました.しかし実際には,その時々の私のレベルに合った『明日から使えるヒント』を毎回いただいています.今回はとりわけDES-Tに関する発表は,使っている内に混乱してきていた私にとってまさしく目から鱗の如く理解が進むものでした.
午後は,タイムリーなテーマである教育講演「事例論文の書き方」や,後述しますシンポジウム「発達障害へのEMDR」,最後はスペインからの特別講師Dolores先生による特別講演「自己愛性人格障害をEMDRで理解し扱う」という盛り沢山の内容でした.
一般発表にも多かったもうひとつのテーマ「発達障害」に関するシンポジウムは,自閉症スペクトラムに関して,発達障害・認知的個性・トラウマという3方向からのアセスメントと支援の必要性,EMDR導入時の創意工夫,そして認知的個性を活かす支援のあり方について,短時間ながらそれぞれ大変わかりやすい内容となっていました.
Dolores先生の講演については,とてもお伝えしきれませんが,その演題が示すように,『EMDRで理解』という要素が入っていたのが新鮮でした.私は,恥ずかしながらEMDRのネーミングや手段の奇抜さから,まずはいかに手段を習得するかに走りがちでしたが,EMDRは『両側性刺激』を用いた技法というだけではなく,考え方なのだということに改めて気づくことが出来ました.
今回の大会テーマであった「明日への挑戦」という言葉通り,これからも挑戦を続けて行くための多くの勇気とヒントをいただいた学会でした.
学会場では,読売テレビの取材があり,「かんさい情報ネットten!」で放映されました」
*** 各地方勉強会のご紹介(3) ***
EMDR講習会受講者の増加にともない,継続的な研修のための勉強会が各地方で行われるようになっています.これまで,「東北EMDR勉強会」「関西EMDR勉強会」「EMDR東京勉強会(TSG)」「九州勉強会(KSG)」を紹介させていただきましたが,今回は,「北海道EMDR勉強会」と「北信越EMDR勉強会」を紹介させていただきます.各会とも事例検討や魅力的な講師を迎えての講習会を企画されています.各地域勉強会への参加に際しましては,日本EMDR学会ホームページの「お知らせのカテゴリー」→「地域勉強会」で確認して下さい.
https://www.emdr.jp/category/地域勉強会/
「北海道EMDR勉強会」のご紹介
秋田 有紀子
創心メンタルケアクリニック
北海道勉強会の行きがかり上の世話人をしています秋田有紀子と申します. といいますのは,北海道勉強会は正式に世話人を決めるとか,定期的に会を開催するとか決まっていないのです.有志が,草の根的にはじめ,そのまま継続しています. ご存じの通り広大な土地,また専門家の少なさから,なかなか集って研鑽をしてくことが難しいのですが,Skypeを用いて何度か勉強会をしました. また,アドバイサーの先生が札幌に,他のご用事で出張の際,ご厚意に甘えさせていただき勉強会をしています.このような勉強会を年に1回程度しか行えていません.恥ずかしい限りですが,種火のような北海道勉強会の火だけは絶やさないように,諸先生方のご協力の元続けられるようにしたいと感じています. 北海道勉強会にはMLがあります.PART1(Weekend1)またはPART2(Weekend2)終了の方はまずはMLに入会をお願いします. ご連絡はcp@psy.club.ne.jp までお願いします.
「北信越(旧新潟)EMDR勉強会」のご紹介
名和 淳
長岡児童・障害者相談センター
北信越(旧新潟)EMDR勉強会は,昨年(平成25年)の10月12日に第一回目が開催された,発足したばかりの新しい勉強会です.東日本の日本海側では,唯一のEMDR勉強会として,今後の発展を目指しています.そのため,はじめは新潟EMDR勉強会として企画いたしましたが,本多正道先生よりご助言をいただき,お近くの方にお気軽にご参加いただけるようにと,北信越EMDR勉強会と名称を改めさせていただきました.
この勉強会は,太田茂行先生にお声掛けいただき実現しました.また,幹事が私を含めて4人おりまして,勉強会の企画・運営に力を尽くしています.こちらの地域では,東京や関西,九州に比べるとEMDRを実際に使っている人は少数だと思いますが,少しでもEMDRを用いる際の疑問などを解消していくことに貢献できればと考えています.
私事ですが,太田茂行先生との出会いは,発足間もない頃の東京勉強会(TSG)でした.トレーニングを受けたばかりで,EMDRの効果に驚き,そしてTSGにお邪魔させていただくと,自由でフレンドリーな雰囲気と,実際的な知識を無料で惜しげもなく先生方が教えてくださることに感動を覚えました.それ以来,私はすっかりEMDRの信奉者ですが,何年もの時間を経て,新潟の地で勉強会を開催できることに,心より喜びを感じております.
今年度は年二回の開催を目指しておりまして,直近では7月19日(土)15時から18時に長岡西病院にて開催いたしました.テーマは「EMDR面接成功の基本・・ケース・フォーミュレーションの巻・・」と題し,太田先生よりご講義をいただき,長岡西病院の小野田明先生に事例提供をいただきました.冬には市井雅哉先生にお越しいただくこともお願いしております.毎回新潟の美味しいものを堪能できる懇親会も企画しておりますので,まだまだ少人数の勉強会ではありますが,また交通の不便はありますものの,お近くの先生方にはぜひご参加いただければと思います.多くの方のご参加をお待ちしております.
EMDR Weekend 1トレーニングを終えて
西藤 奈菜子
大阪医科大学神経精神医学教室
臨床心理士として様々な現場で勤務する中で,トラウマが現在の症状や思考,行動に影響を及ぼしていると思われるケースは少なくありません.「EMDR」という心理療法をもちろん知ってはいたものの,「外傷的な記憶を短期間で処理できる画期的な方法」なんて本当に存在するのかと半信半疑であったため,積極的に学ぼうとすることなく今まで過ごしてきました.しかし,EMDRを学び治療に活かしている先生方とお会いする機会を得て,トレーニングに参加することを決めました.
Weekend 1トレーニングとなり,3日間の研修に加えベーシック・コンサルテーションの受講が含まれるようになりました.3日間の研修は,市井先生の講義と,研修終了後にはEMDRを用いて治療が行えるようにと臨床を見据えた実習で構成されており,EMDRについての基本的な知識と技術を学ぶことができました.講義では,EMDRの概観,研究成果やメカニズム等についてわかりやすく説明いただき,知識不足のまま参加した私にとっては驚きの連続でした.EMDRの効果を思い知ったと同時に,トラウマを扱うことの怖さや不安を改めて感じた瞬間でもありました.しかし,経験豊富なファシリテーターの先生方の励ましのもとEMDRを体験することで,また3日間EMDRについて様々な体験を共有したメンバーとの話し合いを通して,怖さや不安は少しずつ軽減され,自信へとつながったように思います.ベーシック・コンサルテーションの受講において,EMDRを実際に用いる上での悩みを再度共有することができたことも安心感につながり,大変貴重な学びとなりました.
研修を終えて臨床に臨むと,今までトラウマに目を向けることができていなかったと痛感します.強迫性障害の治療を進めていくうちにトラウマの存在が見えてきたケースもあり,新たな視点を手に入れることができたことは,これからの臨床において非常に大きな収穫だと感じました.今後Weekend 2 トレーニングにも参加し,さらなる研鑽を積みたいと思います.最後になりましたが,市井先生やファシリテーターの先生方,スタッフの皆様をはじめ,ともにEMDRについて学びを深めることができた参加者の皆様に心より感謝いたします.
*日本のEMDRトレーニングが進化しています*
太田茂行
日本EMDR学会トレーニング・研修委員会代表
下記に簡略に記されていますように,2013年秋から日本でのトレーニングが変化しました.現在の世界標準に準ずる変化を遂げて進化しているのです!
まず従来のPart1/Part2と言う名称がWeek-end1/Weekend2と変わるとともに,トレーニング後に合計10時間のベーシックコンサルテーション(BC)の受講が必須となりました.2013年のWeekend1以来,すでに200名以上の方がBCを受講されており,好評を博しています.BCは,トレーニングで学習したことの現場実践について,具体的に指導を受ける実践教育の場です.学会の認定コンサルタントが担当しています.
また,2014年10月のWeekend1からは,使用されるテキストが新たなものになります.学習内容が変わるというよりも,より実践的な学習ができるように,教示と実習方法が大きく変化するのです.たとえば,講義は午前中のみとなり,午後は3日間すべて実習になります.実習の小グループは毎回同じファシリテーターが担当します.実習では,現実の臨床場面を再現するような工夫がなされており,セラピスト役もクライエント役も今までよりも深いEMDR体験ができるようになっています.
これらの変化は,「トレーニングに参加してEMDRの基礎を学んだけれども,なんとなく実践できずに忘れてしまった・・・」という人が減るように,という意図でアメリカで数年前から導入されました.いわば,“EMDRのペーパードライバー“を無くそうというのは,どこの国にもみられる大きな課題でした.今回の変化により,日本でもEMDRの適切な実践がいっそう広がることが期待されます.
<今後の予定>
EMDRトレーニング
Weekend1
2015年3月13〜15日(三宮研修センター)
臨時Weekend2: 2014年8月開催のW2のキャンセル待ちの方対象)
2015年2月20~22日(三宮研修センター)
日本EMDR学会第10回学術大会および継続研修
2015年5月22〜24日(早稲田国際会議場・飯田橋レインボービル)
第9回EMDR臨床セミナー
2014年12月6~7日(メープル有馬)
http://kokucheese.com/event/index/198986/
<お知らせ>
2013年10月より,日本におけるEMDRトレーニングの形式が変わりました.Weekend1およびWeekend2を受けることに加えて,合計10時間のベーシック・コンサルテーションの受講が必須となりました.これはEMDRトレーニングの世界標準に応じた変更です.旧来のPart1のみの修了の方は,2017年まで移行の猶予期間があります.詳しくは日本EMDR学会ホームページでご確認下さい.
* 編集後記 *
春には心理職の国家資格化に関する報道もあり,動向が気になるところです.6月に開催された第9回学術大会は,内容も充実し,またテレビ局の取材も入り,ますますトラウマケア,EMDRが注目されてきていることが実感できました.各地で開催されている勉強会も今回で6地域となり,あとは東海と中国を残すのみとなりました.これからもより多くの情報を発信できるよう充実した誌面作りを目指して頑張りますので,ご協力の程よろしくお願いいたします.(E.U.)
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EMDRニューズレター27号