ニューズレター32号+33号合併号 2018年夏号

目次

 


巻頭言 「EMDR Asiaを支える仲間たち」

日本EMDR学会理事長
市井雅哉

 ちょっと以前になってしまったが、昨年(2017年)4月に上海での第3回EMDR Asia大会が盛大に開催された(日本からの参加者は4名と少なかった)。新学期始まってのなかなか忙しい折りではあったが、8日間滞在し、その際には、学術大会以外にも、トレーナー・トレーニング、コンサルタント(ファシリテーター)・トレーニングが開催された。トレーナー・トレーニングには、インドからSushma Mahrotra、そして日本から市井、UKからDerek Farell、イスラエルからGary Quinn、アメリカからRosalie Thomasなどのトレーナーがトレーナー・トレーニングに参加した。また、コンサルタント・トレーニングには、インドネシアからTri Iswandani、タイからAnnとSombat、韓国からDaeho Kim、インドから Dushyant、Parul、中国からJinsong、アメリカからMarilyn Luberが参加した。トレーニーたちは、インド人、中国人などを中心にアジアから多数が参加した。以前にもお伝えした通り、EMDRIA、EMDR Europeに比べるとまだまだ後進地域であるアジアであるが、新しい息吹が芽生えていると言えるだろう。

 このアジアの隆盛を支えているのが、アジアのリーダーたちである。インド、ムンバイのSushma Mahrotra博士は初代の会長として2010年バリ大会の準備段階から長くEMDR Asiaを引っ張ってくれた。彼女のこの間の辛抱強い努力には目を瞠るものがある。第1回のバリ大会(2010年)は欧米からも参加者が多数いて成功したが(日本からも10名以上の参加があった)、第2回のマニラ大会(2014年)は参加者が少なく(日本からはわずかに2名)、また地元フィリピンのスポンサーがEMDR Asiaの方針に協力的でなく、大会の前後に行ったトレーニングで途中脱落者が多数出るなどの問題が起こった。その後、オーストラリアのトレーナーがDVD教材で講義部分をカバーし、スカイプで実習を行うトレーニングを正式なトレーニングとして認めさせようと画策したが、いくつもの国際会議の場で、他の地域の代表も交えて断固として認めない方向で折衝に当たった。アジアは後進地域ではあるが、国際的なトレーニングの基準を守ることを厳格に行ってきた。そして、上海大会の後、新しく会長になったシンガポールのMatthew Wooにも大いに期待したい。着任早々であるが、シンガポールでアメリカのトレーナーが瞑想をEMDRのベーシックトレーニングに入れ込む問題が起こっているが、我々は一致団結してアジアの基準を守るべく夜のSkype会議で話し合いを重ねている。アジアの一員としてこれまで一緒に今日の姿を作ってきた歴史に誇りを感じている。EMDRのトレーニングは世界基準で高い質を保っていることがEMDRの高い評価へとつながっていると言えるだろう。

 さて、次のアジア大会は2020年バンコクで1月3日〜1月5日に開催される。観光を兼ねて是非バンコクへ出かけて頂きたい。

中央でマイクを持っているのが、Sushma Mahortra博士、その右隣がMatthew Woo。その後方に私がいる。その他、ミャンマー、台湾、インド、インドネシア、タイ、香港、中国、韓国、ネパール、フィリピンなどの代表たちが顔を連ねている。


第3回EMDR Asia Conferenceに参加して

こいでクリニック
小山 聡子

 2017年4月21日~23日、中国の上海で開催された第3回EMDR Asia大会に、日本からは、ご発表者である兵庫教育大学の市井雅哉先生、甲南大学の福井義一先生のほか、帝京平成大学の中谷三保子先生、こいでクリニックの小山聡子の計4名が参加させていただきました。

 21日は、プレカンファレンスWSが開催され、私は、Dolores Mosquera先生の“Treating Dissociative Disorders with EMDR: The Progressive Approach”に参加させていただき、ベーシックなEMDRの使用を強く制限されている解離性障害への治療について、他の治療法などを駆使して長い準備をした後に、AIPモデルに基づいて機能不全を起こしている部分にEMDRで介入していくプロトコルをセッションビデオを通して学びました。21日夜には、ウェルカムレセプションディナーが盛大に行われ、我々日本人は、市井先生のご提案で日本らしさを感じられる服装で参加させていただいたお蔭で、他国との交流も活発に行うことができました。

 22日の大会初日の朝一番に行われたキーノート・スピーチでは、市井先生が座長、Udi Oren先生がスピーカーとして“EMDR therapy as a body oriented psychotherapy”について、ご講演くださいました。EMDRにおけるAIPモデルに基づいたアプローチでの身体志向の重要性、EMDRでターゲットとするトラウマ体験や記憶において、身体的なチャンネルも中心的な要素であること、近年では急性および慢性的な身体症状におけるEMDRの効果研究が進んでいることなどについて拝聴でき、EMDRの適用範囲がさらに広がっていく可能性を感じました。また、カンファレンス・セッションでは、市井先生の“Effect of tactile stimulation on positive imagery in Resource Development and Installation (RDI) procedure”(口演)、福井先生の“Reanalysis of effects of gaze shift in a specific direction on subjective intensity and vividness of positive and negative memories: Interaction between view point of recalled memories and dominant eye”(ポスター)のご発表が行われました。

 22日~23日にかけては、複雑性トラウマを抱えるCl.へのEMDR中の身体への気づき(Maggie Poon先生)、自殺念慮や自傷行為のあるCl.へのEMDR(Dolores Mosquera先生)、愛着障害や解離のある摂食障害Cl.へのEMDR(Natalie Sejio先生)のWSに参加させていただきました。Dolores先生とNatalie先生のWSでは、セッションビデオを通して、様々な主訴に応じたEMDRによる治療的介入の仕方を学びました。ビデオ中のセッションは本当に素晴らしいもので、今の私には目標にしかできない領域のように感じましたが、両先生方の「これは決して最初からこのようなセッションができているのではなく、ここまでに多くの時間を費やして準備をしてきたことを忘れないでいてほしい」という言葉が、とても印象深く、勇気づけられました。

 今大会では、基本的なEMDRの使い方以外に、様々な主訴への介入時のポイントや独特のプロトコルについても拝聴させていただくことができました。海外でのEMDRの大会への参加は今回が初めてで不安もありましたが、他の参加者に温かく迎えられ不安も吹き飛びました。このような密度の濃い貴重な機会を与えていただけたことに心より感謝いたします。


EMDR EUROPE CONFERENCE 2017に参加して

大阪府・大阪市・堺市SC/神戸・大阪少年鑑別所 嘱託教科指導員
きょうこころのクリニック、 臨床心理士 土田圭伊子

 
 

 EMDR EUROPE CONFERENCE 2017は、スペインのバルセロナにて、6月30日の夕刻より、EMDRスペイン代表によるオープニング講演と授賞式で幕を開け、7月2日までの3日間、開催されました。会場であったカタルーニャ地区はスペイン屈指の観光地で、8月13日、その地区で自動車による無差別襲撃テロが発生しました。まず、犠牲になられた方々に、心より哀悼の意を表します。

 当初、私は日本ERDR学会への参加が日程的に難しく、EMDR EUROPE事務局に参加を申込み、6月30日の深夜に到着し、翌日のプログラムから参加しました。Dolores Mosquera先生の“Training Complex PTSD with EMDR Therapy”と、Christina Cortes先生とMarie France Gizard先生による“How Can We Facilitate an Integration of Mental、Emotional and Physical States in Children who Suffered Early Abandonment Trauma?”を拝聴しました。どちらの会場でも、参加者からの質問が盛んに行われていたのが印象的でした。

 今回のお目当てであったAna Gomez先生は、8月に東京で開催された日本EMDR学会及び継続研修での招待講師であられたので、皆様もお顔が浮かばれることと思います。幸いにして、私は東京でも参加できましたので、今回、2か所で参加した一受講者としての感想を記したいと思います。

 EMDR EUROPEでのAna先生のご講演は、1日目は60分間1コマ、2日目は90分間3コマの設定でした。そこでは、通訳の形態が、個別に貸出しされたオーディオを使って、現地の言葉であるスペイン語に同時通訳されていたという構造的な違いがありました。それ故、よかった点は、講師の先生方のお話が、途切れることなくダイナミズムに展開され、結果、Ana先生のご講演内容も豊富だったかと感じます。反対に、残念だったのは、オーディオからの音漏れがあちらこちらであり、聞きづらい場面が各ブースでございました。それ以上に、私の語学力では正しく把握できていないままの箇所や、聞き逃しが多く存在しておりましたので、東京で再受講してよかったと思います。分かり易い日本語で通訳をしてくださいました大澤智子先生と菊地安希子先生に、紙面をお借りし、改めて感謝を申し上げます。有難うございました。

 さて、Ana先生は、こどもさんとジェノグラムを作られる際には、動物のイラストを用意されたり、解離の状態をアセスメントされる際には、箱庭やアイスクリームの棒で解離パーツを扱われたりと、至るところで、こどもと親和性の高い物を、適宜、利用されておられ、我々の心をわし掴みにされましたが、東京では紹介されなかったものに、“Safety Luggage”なるものがありました。これは、アタッチメントのリソース作りの過程で、安全感や安心感の確保に用いられ、小さなバッグにクライアントであるこどもさんたちが、それぞれの“安心”を持ち歩けるものでした。

 気になる中身ですが、ビデオの中のこどもさんのお一人が、女の子の名前を付けた人形、祖父母の写真、そして最後に、満面の笑みと大きな声で、“ANA GOMEZ!”と、Ana先生のお写真を取り出した場面では、会場も大笑い。こどもさんには、目では見えない“感じ”を可視化や具現化することが大切だと痛感いたしました。

 そこで、今回、両方のワークショップに参加して、私自身が反省したことがあります。我々日本人は、感情の表現が薄いため、演者である先生をエンパワメントできていなかったかもしれないという点でした。東京でAna先生が、“このレジュメを差し上げますね!”と我々に言って下さった時も、私は拍手をしかけて、会場が静かであると、その手を引っ込めてしまいました。スペインでは、ご講演の最中でも、受講者の多くがいい場面で笑ったり、先生とも自然な掛け合いをしたり、積極的に聴いているという反応を示していました。そして、Ana先生が全ての話を終えられた瞬間には、東京の3倍ほどあったであろう会場の参加者全員が、スタンディングオベーション!鳴り止まない喝采の嵐と共に、ブラボーの声があちらこちらで飛んでいました。これには、Ana先生もとても喜んでおられたご様子でした。素晴らしいセラピーの一部始終を惜しげもなく披露してくださったAna先生に対して、先生のお住まいの国の文化に合わせたやり方で、最高の賛辞を表現をすべく、東京の会場でも立ち上がって拍手をすればよかったと悔やまれます。

 そして、追記になりますが、スペインでの学会開催の工夫としては、当日の参加登録がPCでなされ、再入場はスキャナーでIDカードを提示して行われていたため、セキュリティも高く、また、スムーズゆえ、受付のボランティアの方々もほぼ受講ができておられたようでした。

 また、会場内に参加者同士が交流を図れるスペースが設けられ、コーヒーブレークの時間には、飲み物やクッキーなどが提供されていました。午前・午後と各30分程度ではありましたが、イラクやアメリカといったヨーロッパ以外の国からも、多くのセラピストが参加していることを知ったり、それぞれ普段どんな方にEMDRをしているか、セラピーの料金設定は?など、ざっくばらんな話の中で、とてもいい気分転換ができ、EMDRを通して世界中に仲間がいる感じさえ持てました。

 そして、何よりも有り難かったのは、参加者全員が、発表された多くの先生のレジュメを電子媒体で頂けたことでした。学会開催の直前にサイバー攻撃の問題が発生したため、USBスティックでの配信ができないと事務局から案内があり、代替措置として、レジュメを登録メールのアカウントからダウンロードすることができました。また、会場内では、カメラの等での撮影も認められていたため、参加者はとても多くの情報を持ち帰ることができました。

 最後に、私事で恐縮ですが、参加1日目を終えた夜中に最愛の母の訃報が入り、最期の看取りができなかったことへの残念さ、発熱で、眠れないまま朝を迎えましたが、不思議と気力は萎えることなく、会場に向かうことができました。これは、前日のAna先生の受講で、重いトラウマの症状で苦しむこどもさんや、その親御さん方を元気にされてこられたAna先生のご足跡を生で拝見して、自分自身が癒されていく、包まれていく、そんな温かな感覚を憶えていたからかと感じます。Ana先生のお話が、単に技法のご紹介ではなく、傷ついた人の心を救っていかんとされている、また、多くのセラピストに知恵を渡さんとされているエネルギーの在りどころに、私は勇気づけられたと確信します。また、私の仕事をいつも応援してくれていた母ならば、私が帰国を1日早めるよりも、頓挫せずに受講することを望んでくれるだろうと思えたことも大きかったと振り返ります。そして、私は、“Safety Luggage”の代わりに、“the thoughts kits for kids”というカードを購入し、厚かましくもAna先生とのツーショット写真とサインを頂いて、3日間の旅を終えました。そのカードは、NCなどがとても明瞭な英語と動物のイラストで表記されていて、帰国後のケースで既に活躍しつつあります。

 総括すると、海外のEMDR学会に参加することで、EMDRが世界中で役に立っていると肌で実感できました。また、日本語で、日本の風土を加味した中でEMDRが学べることの有難さも実感いたしました。これまで、市井雅哉先生が日本のEMDRを牽引して下さってこられたことに改めて感謝いたします。まだまだ未熟な私ですが、自分の足元で、クライアントさん方のお役に立てていけたらと思います。

 来年のEMDR EUROPEは、6月29日から7月1日まで、ドイツ国境に近い、フランスのストラスブールでの開催だそうです。また、参加できることを望みつつ、私の拙い感想文を終えます。最後まで読んで頂きまして、どうも有難うございました。


第13回 新EMDR臨床セミナーのお知らせ

第13回EMDR臨床セミナー幹事
南川華奈・橋本幸子・上田英一郎

 新しくなった 今年度の臨床セミナーの第1報を以下のようにご案内いたします。

第13回目の今回は、神戸有馬温泉兵衛向陽閣にて、例年通り12月第2週末(12月8日-9日)に開催できる運びとなりました。

 有馬温泉は、日本三古湯、日本三名泉に数えられ、鉄さびを溶かしたような独特の赤茶色をした金泉が有名です。その中でも、兵衛の向陽閣と言えば、駅からも近く、700年の伝統ある旅館、関西ではあのCMでも有名な温泉旅館です。また、三宮(神戸)や大阪からのアクセスも良く、是非、初学者の皆さんからベテランの皆様まで多くの方のご参加をお待ちしております。幹事の南川もまだまだEMDRについて学び始めたばかりです。

  • 今まで疑問だったけれど、近くに気軽に尋ねる人がいなかった!
  • EMDRを日々の臨床に取れ入れているけれど、うまくいかないことがあり、教えて欲しい!
  • トレーニングを受けて時間が経っているけれど、最近のプロトコルはちょっと違うらしいけど、どこが違うの?
  • アタッチメント障害への理解について深めたい!

 色んな方々と交流しながら、一年のお疲れを癒やしていただき、是非良い学びの機会となりますよう、幹事一同、精一杯頑張って参りたいと思いますので奮ってご参加ください。

【第13回 新 EMDR臨床セミナー@有馬温泉 兵衛向陽閣 】
開催期間:2018年12月8日(土)〜9日(日)
開催場所:有馬温泉 兵衛向陽閣(神戸市北区有馬町1904)有馬温泉駅から徒歩5分!
https://www.hyoe.co.jp
定員:宿泊定員 40名まで(先着順)
研修定員 50名程度(研修のみの参加、1日だけの参加も可能です)
研修費ならびに宿泊費: 例年程度を予定しております
《12月8日(土):1日目》 午後から開始
教育講演① 市井雅哉トレーナーによる「最新プロトコルの学び直し」
終了後   夕食&懇親会
《12月9日(日):2日目》
AM10時〜 教育講演② 田中究先生(ひょうご こころの医療センター院長)による「アタッチメント障害」
13時頃解散予定
(詳細な時間、研修内容につきましては、決まり次第お知らせいたします)


新役員のお知らせ

 2018年3月2日に開票されました選挙結果に基づき、就任承諾を経て下記の皆さんが新役員(理事、監事)として決定致しましたのでお知らせします。任期は、2018年総会終了時から2021年総会終了時点までです。次号では、新理事の抱負をお届けする予定です。

新理事(50音順)

  • 天野玉記(京都大学医学部人間健康科学科)
  • 市井雅哉(兵庫教育大学大学院)
  • 上田英一郎(大阪医科大学)
  • 菊池安希子(国立精神・神経医療研究センター)
  • 小林正幸(東京学芸大学)
  • 竹内 伸(さきお英子子ども心のクリニック)
  • 仁木啓介(ニキハーティ-クリニック)
  • 福山絵美(カウンセリングルーム・エミュウ)
  • 藤本昌樹(東京未来大学)
  • 本多正道(本多クリニック)
  • 森本武志(福井大学子どものこころの発達研究センター)
  • 幸田有史(京都府立洛南病院)
  • 吉川久史(広島国際大学)

新監事(50音順)

  • 太田茂行(生活心理相談室ナヌーク)
  • 杉山登志郎(浜松医科大学)


<お知らせ>

EMDR Weekend2 トレーニング
開催日 2018年 8月3日(金)-5(日)、東京

EMDR Weekend1 トレーニング
開催日 2018年9月21日(金)-23日(日)、徳島

EMDR Weekend1 トレーニング
開催日 2018年10月19日(金)-21(日)、東京

2018 EMDRIA Conference
2018年10月4日(木)〜7日(日)、Atlanta, US

EMDR Weekend2 トレーニング
開催日 2019年 2月8日(金)-10(日)、徳島

第13回EMDR臨床セミナー(予定)
日時:2018年12月8日(土)〜9日(日)
場所:有馬温泉向陽閣(兵庫県)


<編集後記>

 6月に,今度は関西で大きな地震が発生しました。勤務先の病院は、少なからず被害に遭いましたが、大きな混乱はなく復旧しています。ただ、職員の中には過覚醒になって頑張っておられる方も見受けられ、職員相互の注意深い見守りやケアが必要となっています。また豪雨の被害や,毎日40℃近くまで気温が上昇し,気象庁が高温注意情報を発令するような異常気象もみられ、夜も気温が全然下がらず,クーラーなしでは眠れない日が続いています。例年になく体力を奪われていると感じる今日この頃です。会員の皆さまもご自愛ください。(E.U)

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