ニューズレター第26号 2014年冬

目次

EMDR Europe第14回大会参加記
*** 各地方勉強会のご紹介(2) ***
「EMDR東京勉強会(TSG)」のご紹介

「九州勉強会(KSG)」のご紹介
Basic-Ph マスタートレーナーワークショップ実施報告
EMDR Part1トレーニングを終えて
日本EMDR学会新理事就任挨拶
<今後の予定>
<お知らせ>
編集後記


EMDR Europe第14回大会参加記

市井 雅哉
日本EMDR学会理事長

6月6-8日にスイス,ジュネーブで開催されたEMDR Europe会議に参加した.今回は,日本からの参加者は私一人で,やや寂しいものだった.ジュネーブは大変国際的な都市で,スイスの西の端,フランスに突き出た位置にあり,長く独立を保った歴史がある.今年の大会は,昨年のマドリードに比べると,1日日程が短く,一般の研究発表のない,ワークショップや,シンポジウムが中心のプログラムだった.

先ず,トレーナーズミーティングの中で,オランダのHellen Hornsveld博士の発表があり,オランダEMDR学会のガイドラインにおいて,RDIや安全な場所では眼球運動を用いないと決まったことが報告された.確かに肯定的なイメージは,思い浮かべるのみで十分で,余計な視覚刺激は妨害的に働くケースも少なくない.この結論は,短いが,速い眼球運動を用いた実験結果に基づいているので,是非今後,ゆっくりの眼球運動や触覚など他のモードを用いた研究も含めた検討が望まれるだろう.

また,Derek FarrellのUniversity of Worcesterの大学院プログラムが紹介された.彼のEMDRコースは3年間に渡るもので,part1&2のみならず,コンサルテーション,さらには研究プロジェクトまで含んだ内容となっていて,大変包括的なものとなっている.こうしたコースがもっともっと広がることが世界的なEMDRの発展のためには望まれる.

基調講演の一つでMark Van OmmerenがWHOのガイドライン作成者の立場から,EMDRがストレス関連障害への治療法として推薦されたことの意味に触れていた.これまでのいろんな国や地域,もしくは学会の推薦は,基本的には先進国のデータに基づいたものであるが,WHOは,医療後進国や最貧国の現状も考慮に入れた上でガイドラインを作ることが求められており,その点で,より幅広い視野からチェックされた上での推薦であることが述べられていた.例えば,トルコやイランなどでの実践も発表されているし,HAPも世界中で活動している.こうした成果が現れていると考えると誇らしい限りである.

最後には時間を見つけて,世界赤十字の博物館を見たり,雨の中WHOの本部も外から眺めた.また,アジアの仲間とスイス料理を堪能した.

今年の第15回EMDR Europe会議は,6月26-29日,スコットランドのエジンバラでEMDR誕生25周年記念大会として開催され,多くの研究発表が行われる予定である.(http://emdr2014.com/conference/index.html

2014news1


*** 各地方勉強会のご紹介(2) ***

EMDR講習会受講者の増加にともない,継続的な研修のための勉強会が各地方で行われるようになりました.前号では,「東北EMDR勉強会」と「関西EMDR勉強会」を紹介させていただきましたが,今回は,勉強会の元祖EMDR東京勉強会(TSG)と発足4年目の九州勉強会(KSG)を紹介させていただきます.各会とも事例検討や魅力的な講師を迎えての講習会を企画されています.詳しい案内は日本EMDR学会のホームページに掲載されていますので,奮ってご参加下さい.https://www.emdr.jp/

「EMDR東京勉強会(TSG)」のご紹介

石川 泰代
奥山こどもクリニック

EMDR東京勉強会(TSG)は約十数年前に太田先生,鈴木先生,菊池先生らを中心に発足したのが最初であるとうかがっております.そこから現在に至るまで東京の新宿付近を中心に開催されています.
現在は毎月第4土曜日18時から3時間を基本に,前半の1時間をミニレクチャーや自己紹介の時間に充て,後半の2時間を事例検討会という形で行っております.前半の時間帯は理事の先生方を中心にその時々のEMDRに関連したホットな話題を提供していただいたり,また,Part1,2トレーニングが修了した時期に合わせて,自己紹介や個々の職場でのEMDRの導入や使用に当たって困っている点やうまくいった点などざっくばらんに話し合うような時間も設けております.後半の事例検討会では,太田先生,菊池先生,竹内先生,北村先生がそれぞれの事例に合わせてコンサルテーションをしてくださっています.参加人数については,医療,福祉,教育,産業等多岐にわたり,毎回平均すると30名前後の方々が参加しています.最近はトレーニングを終えてすぐにご参加いただく方も増えてきており嬉しい限りです.また,時期によってはTSG終了後に暑気払いや新年会などを計画し,参加者の皆様が楽しく交流できるような場もございます.
Part1トレーニング終了後からご参加いただけますので,トレーニングを終えてEMDRを使いたいけれど一人では不安という方から,このニューズレターを見て興味を持ってくださったベテランの方までお気軽にご参加ください.TSGはいつでも歓迎いたします.


「九州勉強会(KSG)」のご紹介

北 千恵
熊本県精神保健福祉センター

九州地区EMDR勉強会は,2009年秋,その年にPart2トレーニングを受講した熊本の医師・臨床心理士で自主勉強会として発足し,4年目になりました.主に,熊本市内で開催しております.当初は,熊本の頭文字をあて,KSG(Kumamoto Study Group)とし,いずれ,Kyushuの“K”となることを願って付けた名称でしたが,今ではありがたいことに九州各地から参加があります.

KSGでは,毎回,九州唯一のコンサルタントのニキハーティーホスピタル仁木啓介先生にお越し頂き,講義や助言を行って頂いています.「“EMDR”というなんかすごい技に触れることはできた(実習で体験もできた!)けど,目の前のクライエントさんにどう活用していったら良いのか…正直おっかなびっくりで,こわい…」「数年前にトレーニングを受けたけど,結局実践する機会を持てなかった…」などEMDR初心者が中心です.処理に入る前に行う安定化の技法を繰り返し実習で学ぶこともあります.そして,事例検討や参加者の希望のテーマについて,仁木先生にご講義頂くこともしばしばです.また,一昨年は,初めて公開講座を実施し,竹内伸先生に,「最新!トラウマ治療に役立つ脳の知識」,伊藤華野先生に「からだをつかったこころのワーク『ヨーガ』とトラウマケア」について御講義頂き,去年は福井義一先生をお招きし「今日から始める自我状態療法」と題して,5時間ワークショップを初めて開催し大変好評でした.

*原則偶数月第2(金)19:00~おおよそ12,3名で,アットホームに行っています.どうぞ,お気軽にご参加ください.

……………………………………….

各地域勉強会への参加に際しましては,日本EMDR学会ホームページの「お知らせのカテゴリー」→「地域勉強会」で確認して下さい.

https://www.emdr.jp/category/地域勉強会/


Basic-Ph マスタートレーナーワークショップ実施報告

新井陽子
日本EMDR学会 HAP委員会

2013年9月6-10日にAmerican Jewish Joint Distribution Committee (JDC) から災害救済基金支援を受けて, The Israel Trauma Coalition (ITC) の東日本大震災支援プロジェクトとして,Mooli Lahad博士とDalia Sivan先生が来日され,甲南大学ネットワークキャンパス東京にて,Basic-Phマスタートレーナーワークショップを開催いたしました.27名の日本初の日本人Basic-Phマスタートレーナーが誕生いたしました.
5日間のトレーニングでは,Basic-Phのメソッドやスキルを講義だけでなく,多くの実習を交えたプログラムが実施されました.より実践的なプログラムを通じて,受講者は指導者としての自信も身につけたことでしょう.
Basic-Phについて簡単にご紹介いたします.ご存知の通りイスラエルは複雑な歴史を経て,トラウマ治療の先進国の一つとなり,多くの著名な心理学者を輩出しています.なかでも最も高名な心理学者の一人であるMooli博士は,コーピングとレジリエンスモデルのBasic-Phを開発し,人が持つ6つのコーピング・チャンネル・モデル・を提唱しています.それは『①信念(Belief)②感情(Affect) ③社会(Social) ④イマジネーション(Imagination) ⑤認知(Cognition)⑥身体(Physical)』であり,人は得意とするチャンネルを持っていて,大小さまざまなストレスに対してそれらを使い分けていると考えられています.
例えば,ある男性に何らかのストレスがかかった時,「男は泣くものじゃない.黙って耐えるべきだ」と考えて対処したとしましょう.これは『信念的』な対処法と言えます.別の女性が「ちょっと聞いて.私ね,こんなことがあって・・」と友人に打ち明けたなら,それは『社会的』な対処法と言えるでしょう.また別の男性は「オレ,とりあえず走ってくる」となるかもしれません.それは『身体的』対処法と言えるでしょう.このように,人によって得意とするストレス対処法はそれぞれにチャンネルが異なるわけです.しかし6つのチャンネルの対処法に優劣はありません.大切なことは,自分が得意なチャンネルを知り,バラエティを知ることや増やすことで,ストレスにより対処しやすくなるということなのです.
Basic-Ph モデルは,とてもシンプルでわかりやすいものです.日常生活で,臨床場面で,どなたでも取り入れることができます.EMDRを用いた治療にもBasic-Phのエッセンスを生かすことで,クライエントの苦悩に対してより幅広く柔軟に対応できることと思います.Basic-Phにご興味を持たれた方は,先ごろ出版されたLahad博士の最新刊(英語)をお手に取ってみられてはいかがでしょうか.
『The “BASIC Ph” Model of Coping and Resiliency: Theory, Research and Cross-Cultural Application』
Mooli Lahad他 Jessica Kingsley Pub (2013/2/15)
そして,Basic-Phワークショップに参加してみたいと感じた方は,ぜひマスタートレーナーとなった27名にお尋ねしてみてください.きっと喜んでワークショップを開催してくれることでしょう.
謝辞:甲南大学ネットワークキャンパス東京を御提供くださった甲南大学と会場確保のためにご尽力下さった福井義一先生に深く御礼申し上げます.


EMDR Part1トレーニングを終えて

姜 昌勲
きょうこころのクリニック

私は,奈良県奈良市にある精神科・児童精神科「きょうこころのクリニック」で開業医として勤務している姜昌勲と申します.児童精神科医,臨床心理士です.発達障害特性を持つ子どもたちの中には,いじめなどを受けて二次的心的外傷体験を抱えているケースは珍しくありません.そのようなケースに対して,徒手空拳で挑むことの限界,自分の無力さにむなしさを感じてきました.何か,有効な手だてはないものか.そんなとき,EMDRが,彼らを救う一つの手段となりうることを知りました.しかし,EMDRに対する第一印象を一言で表すと,「うさんくさい」.なぜ眼球運動をさせることでトラウマを克服できるのか?本当に有効なのか?
トレーニングへの一歩をなかなか踏み出せない中,岡留美子先生や白川美也子先生,福井義一先生,渡部るり子先生など,自分が人間性も含めて尊敬できる方々が,EMDRを会得しているということを知りました.とにかく,外野から「うさんくさい」と批判せずに,まずはトレーニングを受けて判断しよう.尊敬できる先生方の存在に背中を押され,Part1トレーニングに参加することになったのです.
初日に講師の市井雅哉先生が,「三日間のトレーニングを受けたら,月曜からEMDRを使ってかまいません」と言ってくださり,俄然やる気に火がつきました.「これは,本当に使える技法かもしれない」,と.
技法というのは,臨床の中で使用して初めて意味をなす,光り輝くものではないでしょうか.精神科医,臨床心理士として様々な技法に触れてきました.中には「技法」にこだわるあまり,臨床で役に立てていない,いつの間にか「クライエントを幸福に導く手段」であるはずの技法が,「技法を忠実にただこなすことが第一」という目的化していることに,違和感,いえ憤りを感じることさえありました.
三日間のトレーニングは,技法や理論を学ぶことはもちろん,「実際に使ってみる」ことに主眼をおいた素晴らしく充実した内容でした.とにかく勇気を出して使ってみよう.そう決意し,複雑性トラウマなどを除外し安全性を考慮した上で,早速クライエント数名に用いました.著効したケースもあれば,変化の無いケースもありました.プラスのネットワークをしっかり配置する,つまり基本的な環境調整や,支持的な心理療法という土台があって,EMDRは威力を発揮するという当たり前のことに気づかされました.臨床をしていく上で発達障害概念を理解することは当たり前の時代になりましたが,EMDRも「臨床家なら避けては通れない会得すべき心理療法」となるのでは,と感じている次第です.経験を積み重ね,いずれPart2トレーニングに参加したいと思います.今後ともどうかよろしくお願い致します.


日本EMDR学会新理事就任挨拶

原田 憲明
ひがメンタルクリニック

この度,理事に就任いたしました原田です.この3年ほど学会の監事を務めさせていただいておりました.私事ですが,私は経歴的には少し変わっておりまして,長年企業で働いておりました.企業人の傍ら,あるNPO法人でメンタルヘルス運動に係わってはおりましたものの,プロとして心理臨床の世界に入りましたのは,もう50歳を過ぎてからのことです.したがって,理事に選任されましたときに,そういう私がどうこの学会と学会員のために働けるのだろうか,と少々考えましたが,私が多少なりとも貢献できるとすれば,まさに私のキャリアの異質性にあるのではないか,と思い直しお引き受けすることにいたしました.そんなこともあって,役員の業務としては,まずは希望して学会事務局のお手伝いをさせていただくことになりました.当面は学会事務に慣れたうえで,市井先生や海野先生の補佐をさせていただきながら,事務の迅速化・効率化等に少しでも貢献できればと考えております.
私がEMDRの論文に初めて目を通してから早12年,パート2のトレーニングを終了してから7年,臨床家資格を取得してから1年が経過しようとしております.その間,EMDRは少しずつ私の治療法としてなじみ,使い勝手がよくなり,今や私の臨床手段として欠かせないものの一つとなりました.私は,トラウマの優れた治療法として,このEMDRという方法が,少しでも多くの臨床家の知るところ・使うところとなり,トラウマを受けた多くの悩み苦しむ人の裨益するところとなるよう,その普及発展に微力を尽くす所存です.どうぞよろしくお願いいたします.


<今後の予定>

EMDRトレーニング
Weekend1:2014年3月21~23日(神戸,三宮研修センター)
Weekend2:2014年8月1~3日(明治大学駿河台校舎)

日本EMDR学会第8回学術大会及びワークショップ
開催日: 学術大会;2014年6月6日(金)
ワークショップ;2013年6月7・8日(土・日)
開催地:ラッセホール(神戸市中央区)
(詳しくは日本EMDR学会ホームページで)


<お知らせ>

EMDRトレーニングの形式が変わりました.
2013年10月から,日本におけるEMDRトレーニングの形式が変わりました.従来のPart1およびPart2を受けることに加えて,今後は合計10時間のベーシック・コンサルテーションの受講が必須となります.これはEMDRトレーニングの世界標準に応じた変更です.詳しくは日本EMDR学会ホームページでご確認下さい.


* 編集後記 *

ニューズレターの発行が遅くなり申し訳ありませんでした.前号から本号までの間には,皆さまも実感されている通り,EMDRにとって大きな流れが来ています.まず,Eテレで「トラウマからの解放」が放送され,その後クローズアップ現代で「心と体を救う トラウマ治療最前線」というタイトルで取り上げられてからは,数日間,私の施設(大学病院の皮膚科!)にも問い合わせがありました.この流れに乗りきれるよう,これからも適切なトラウマ治療のための情報発信をしっかりとしていきたいと考えております.(E.U.)

2014news2

NHK onlineのweb siteより引用http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3445_all.html


PDF版は以下をクリックしてご覧ください
EMDRニューズレター26号

サブコンテンツ

このページの先頭へ