サイレント・アブリアクション

国立天竜病院 白川美也子


最近、リストのなかで安全な場所を作る困難さに関連する話題がいくつか出たような気がします。私も複雑性PTSDの成人・児童をみるなかで、「安全で安心」という示唆だけで、怖くなったり、不安になったり、場合によってはFBが起きてしまったりする人をみながら、試行錯誤を重ねています。

この夏のトレーニングでトレーナーから、9.11以降、アメリカで「安全で安心な場所」はなくなったので「穏やかでリラックスできる場所」というようにしている、といわれ妙に納得がいきました。ただ、子供時代にほんとうに脅かされてしまった方たちはそれでも、困難なようです。

そういうときには内的資源としてのその人の強さだけではなく、治療同盟を用いて、新たにパワフルな体験をしていただくことも有効だと思います。下記はWatkins&WatkinsのEgo State Therapy(田中究先生を中心に翻訳中)からの紹介です。

 静かな除反応ヘレン・ワトキンスは、専門職のオフィスで患者が暴力的に叫んだり喚いたりしなくてもすむような除反応テクニックを開発した。催眠にかける患者に彼女とその患者が、安全で侵入者がいない静かな森の小道をともに歩いているような静かな情景を思い描かせる。そして、大きな石・岩がその途上をブロックし、そこには患者の欲求不満の理由が書いてある。どうやっても壊れないような分厚い岩である。杖が、すぐそこにあって、患者はそれを拾い上げて、岩をを打ちたくなる。セラピストはこんなふうに励ます。「もっと叩きなさい、もっと叩きなさい、これはずーっとあなたの人生に立ちふさがってきたものですよ。あなたはこれを動かすことができます。あなたはこれをたたき壊すことができます。これにしたいことどんなことでもできます。やり続けるのが疲れるくらいに続けて、そうしたら、私に教えてください」など。

すべての体験はイメージのなかで行われ、患者は音もたてないが、指による合図が確立されているので、セラピストは患者が視覚化についていっているのがわかる。

この「叩く」相に疲れ果てた後は、草地の上での楽しいリラックスが描かれ、心地よい五感が示唆される。「今日やっていることの次の相に進む前に、私はあなたにお願いしたいことがあるの。私に必要なのは、あなたがあなた自身についていう何かとってもポジティブな言葉です。」

怒りを表現することを禁じ続けられた患者は、このような頼みに同調するのはとても困難である。しかし、患者はさらに心地よい体験を経験することに好奇心をかられているので、たいてい反応が起きてくる。すると言及されたよい感情は、患者の身体に広がっていって、まず患者の新しく現れた希望からあらわれ、さらなる喜びにつながり、セラピストの信念と確からしさに置き換えられる。関係性が最大限に使用されるのである。(まだ直訳です)


これ、どんな人にも使えますし、子どもはうんと楽しみます。私は最近初回セッションはこれを使って安全と安心の感覚に導入して、アンカリングしてます。これを使ってその人の催眠感受性をみて、どれくらい視覚化できるかもみます。こうやって改めて本文を読み返してみて、私はずいぶんモディファイしてたな、と実感。例えば私の場合は、こうです。

「今日は、わたしたちの最初のセッションなので、いっしょにとっても楽しいことをしましょう。もしあなたさえよかったら、イメージのなかで先生と手をつないで(大人の場合、一緒にでよし)」あなたの好きなところに遊びに行こう。どんなところがいいかな?穏やかでリラックスできるとても素敵な場所についたら教えて下さい」

「あなたが怖くなったり、嫌になったりしたら、いつでもここに戻ってくることができます」

「さあ、それでは、前をみてください。遠くに森が見えてきます。どんな森かな?」

「近づいてみましょう」

「その森のなかに続く小さな細い小道がみえます。あなたと先生とがやっと通れるくらいの道ですよ」

この後に、森の情景を視覚化してもらいます。その子の、その方の内的資源が非常によくわかります。プレイセラピー風の楽しさや、さがしっこ、かくれんぼみたいなものをここで導入することもできます。

「歩いていくと目の前に大きな岩があります。それで、私たちは通せんぼをされてます。どうやっても超えられないの。その石のどこかに、小さな札があります。その札には「これは◎◎ちゃんの、過去のいやなことぜんぶ」って書いてあります。なんてこしゃくな岩なんでしょう。その札はどこについているかな?どんな札かな?」

「あなたと私で、好きな道具を使って、この石をたたき壊してみよう」

(子どもはいろいろなものを出してくる。今までで面白かったのは斬鉄剣?という奴でした。ちなみにその子はレイプサバイバーでした。)

「それでは、岩がなくなったので、ここを超えて遠くをみてみましょう。岩がなくなったから、遠くがみえてきたね。そこにまた、とっても素敵な場所があるからいってみよう」

「ここで、私からあなたにお願いがあります。いろいろなことを乗り越えてきたあなたに自分から『とってもポジティブな言葉』を送ってあげて欲しいの」

「それでは、今現在の(安心感安全感楽しい感じ達成感)この気持ちを、全身に感じてください。それでは、その感じをきゅーっと左手の親指に集めて下さい。そして、その感じを思い出すための素敵なキーワードを考えてみて」

「あなたが困った時、辛くなった時には、左手の親指をきゅっと握ると、この今の感じを思い出すことができます。どんな時でも、人にみられないで、思い出せるでしょ?この感じは、使えば使うほど強まって、自分で自分をコントロールするために、役にたつものだから、覚えておいてね!」

以上*私のやり方の一例


意図的ではなかったのですが、ヘレンさんのとかなり違ってきているなーと思ったのは岩を叩くだけではなく、壊すことを試みることでした。これは、私の中で外傷性記憶の処理につなげていく意図があり、自然にこれから一緒にする作業のメタファーになっているのかな、と振り返って思いました。この方法でいちばん大切な要は「攻撃性を出したことを肯定的に評価される体験」だと思っています。攻撃され続けて、攻撃はいけない、あるいは攻撃をする意図をもっただけで、加害者と重なり罪悪感をもったり、場合によっては意識消失を来してしまう人たちなのですから。そこには、細心の注意と心遣いをしていきます。

それでは、Silent Abreactionの紹介でした。


以下よりの転載

Subject: [list:00373] Silent Abreaction の紹介
From: Miyako Shirakawa <m-ina@pd5.so-net.ne.jp>
Date: 2003年10月29日 7:10:45:JST